but 少女は善と悪に乱れ …4
突然の急ブレーキに身体が前に押し出され、前の助手席に頭をぶつけそうになる。
横を見ると、白いガードレールと、その下に流れる青い線。
――川の上だ。
タクシーは橋の上で停まっていた。
橋と言っても、ウェストブリッジほどの大きさのものではない。
渓谷に流れる川の上にかけられた、小さな橋だった。
その橋の中央部で、タクシーは停止し、静かにアイドリングの音を上げていた。
「あの……どうし……」
どうしたんですか、と聞こうとして右を向いたところで、私は異変に気付いた。
前の座席に座っている運転手の身体が震えていた。
急停止の衝撃で心筋梗塞にでもなったのかと思ったが、そうではなかった。
私と浅滅が見ている前で、最初は小さかった震えが次第に大きくなり、盛大に身体を揺らし始めた。
痙攣にしても激しすぎる。
発作的に身体をひかせてしまった。分かったからである。
……何か、今から悪い事が起こる。
分かっていた。分かっていたのに、逃げ出すことはできなかった。
運転手の身体は狂ったように座席の上で乱舞を続けている。
「浅滅さん……」
浅滅の方を見ると、彼は冷静にスキットルを仰っていた。
……車の中って飲酒オーケーだったっけ。
「……ハッ。くだんねえ、そういうのにはもううんざりしてるんだよ」
そう言うと、浅滅は扉を開けようとする。
その時だった。
運転手の頭にびりっ、と亀裂が走った。
そのまま後頭部が裂けて横に分かれていき、その間から紅色の丸い物が飛び出してきた。