but 少女は善と悪に乱れ …2
――翌日、私と浅滅燎次は竜ヶ峰市が“あった”ところから二つ街ほど離れた街を歩いていた。
降り注ぐ初夏の日差しを全く気にしている様子も無く、浅滅はロングコートを着たまま前を歩いている。
……なんであんな暑そうなロングコートを着ているのだろう?
聞いたら睨まれそうだから黙っておくけれど。
しばらく歩いていたが、ふと、浅滅が立ち止った。
「……どうしたんです「黙ってろ」
私の声を浅滅の低い声が遮る。
何だろうと思っていると、――――しばらくして、分かった。
後ろから、何者かに見られている。
視線を隠そうともしていない、あからさまな敵意が感じられた。
そして次の瞬間、私たちの周りの喧騒が、水を打ったように消えた。
「……!?」
「……チッ」
浅滅が舌打ちをした音が響く。
カツ―ン……カツ―ン……
そして、前から近づいてくる靴でコンクリートを踏みしめているかのような、音。
「お出ましか……」
浅滅が呟くのと同時に、前方二十メートルほどの所に、黒衣の男が姿を現した。
「……やあ、浅滅。いや、“魔弾の狩り人”。その様子では、ずいぶんと限界が近いようだな」
男の声が妙なエコーを伴って響く。
「おかげさまでな」
浅滅がうざったそうに言う。
「ところで、我が同胞をこちらに渡して貰いたいのだが……渡す気は無いか」
「当然だろうが、この外道」
二人の男が会話を続ける中、私の頭にはある疑念が浮かんでいた。
……私は、あの黒衣の男に会ったことがある……?
どこかで、強烈なイメージを受けたかのような、既視感。
……どういうこと? もし会ったことがあるのだとすれば、それは私が街を出る直前。
私の中から抜け落ちている、記憶の一部。
「……記憶を亡くしたのか。こちらにとっては好都合だがな」
“男”が低く、地底から響き渡るような声で嗤う。