そして少女は錯誤する …1
新章です。
―――――――――――――KOTONE side
私は戌海琴音。
年齢は十五歳。
趣味は動物番組を見ること。
家族はお母さんとお父さんの三人家族。
出身は龍ヶ峰市北区。
通っているのは龍ヶ峰高等学校。
クラスは1-2。
一番好きな人は…………誰だっけ。
―――――――。
揺れる車内。
流れゆく景色。
おぼろげな記憶。
……私は自分の出身地を捜していた。
この列車の路線で間違いないはずなのに。
列車の出入り口の上の電光掲示を見る。
『子守阪』と『沼石』と書かれた文字の間、そこにあるはずの『龍ヶ峰』の文字は、……無かった。
文字通り消えていたのである。確かにこの間には竜ヶ峰市の西出入り口であるウェストブリッジ前の駅があるはずなのに。
窓の外、地平線の先に揺らめく真っ赤な夕日。
また、今日も一日が終わる。そして、また太陽が昇る。
繰り返す毎日。でも、私の周りの時間は止まったまま。
私は、どうして街を出たんだろう……?
今日も同じか、と肩を落としたその時、私の肩はぽんっ、と叩かれた。
顔を上げる。
そこに立っていたのは、二十歳後半くらいの年齢の男だった。
こんな初夏の日に、濃い緑色のロングコートを着ている。
……変な人だ。そう、思った。
「お前が今回の“鍵”か」
男はそのコートをはためかせながら、私の真正面の座席に腰を下ろした。
鍵……? 何のこと?
「……なるほどな、なかなか強い力だ。想像以上だな。支配者が欲しがるわけだ」
「あ、あの……」
この人は何を言っているのだろう。るらー? 何かの名前?
男はさっと立ち上がると、座っている私を見下ろす。
「……さあ行くぞ、お前の生まれた街へ」
「私の生まれた街を、知っているんですか?」
一体この男の人は何者だろう。何で路線図から消えた街のことを知っているのだろうか。
「俺は“狩り人”だからな。“鍵”を保護し、恐鬼を斃す、……そう運命づけられた人間なのさ」
男はそう言うと、
「行くぞ、戌海琴音。お前は決着をつけねばならない。自らの宿命に」
と続けた。