そして事実は語られる …2
これで総計70話です。
「この街を囲った……閉ざした張本人が何者なのか、知っていますか?」
少女は海の方を見ながら俺に問う。勿論その先には地平線なんてものは無く、赤くて黒い雲が見えるばかりなのだろう。
俺も「知るわけないだろ」と返事をし、波打ち際へ顔を傾けた。
しばしの空虚。波が立てるざざあ……という音だけが響く。時折悲鳴みたいなのや車の狂ったようなエンジン音みたいなのが聞こえるのは御愛嬌だ、きっと気のせいだ。
「……西洋系の血の入った黒衣の男です。あなたももしかすると遭ったことがあるんじゃないですか?あの男は物好きですから。憎々しい程に」
その言葉を聞き、それからもう一度頭の中で反復し、そして俺はやっと動くようになった両腕で頭を抱えた。
あの時あの場所橋の上。偽魔女の後に出てきたあいつか……!
どうりで他とは違う威圧感を放っていたわけだ。思えばあの男、偽魔女を顎で使っていたな。あの時点で少しは感づくべきだった。
「あの男は元々“鍵”だったそうです。それが、闇の住人の誘い文句に乗り、堕ちた……」
少女が再び俺の方を向く。
「……私が知りえているのはこの程度です。後は連中にでも聞いてください」
「そんなこと――」
出来るかよ、と突っ込もうとしたが、ようやく起き上がったというのに、俺は少女に抑えられた。
「何を……」
「私たちの存在が感づかれました。すぐに逃げた方が良いです」
そう言うと、少女は足元の砂を足で掘るように除けていく。
しばらくすると、砂の中から、黒い棒の一部のようなものが見えた。
少女はそれを掴むと、一気におそらく砂の中に隠していたのであろう物を持ちあげた。
「…………」
声も出なかった。
だって想像してみてくれよ。目の前の俺より華奢そうな少女が、いきなり砂の中から自身の身長をも越えるほどの長さの大鎌を取り出したんだぞ?
呆然と俺が見ている前で、少女は慣れた手つきで大鎌の柄を掴んだまま、それをひゅんひゅんと回転させる。大道芸人かよ。
「馬鹿にしないでください。これでも私の持っている中で最大の武器なんですから」
当たり前だ。そんな大鎌よりでかい武器なんか使ってたまるか。
大体だな、鎌っていう物はそんなに武器としては高性能じゃ――
「伏せてっ!」
少女が俺の身体を突き飛ばす。予想以上の腕力に、俺はなすすべもなく砂浜に再び寝転がった。
そしてその上を、何か黒い影が飛び越えていく。
何とか立ち上がりその方向を見ると、そこには本物よりも一回りほど大きく、全身が真っ黒な“狼”が、不気味なうなり声を上げていた。