そして事実は語られる …1
少女は少し上を向き、しばらくしてから再び俺の方を見下ろした。
「“鍵”とは何なのか……。あなたは先ほど私にそう問いました」
「ああ。説明を頼む」
少女が頷く。
「……“鍵”は、言うなれば突然変異のようなものです。恐鬼は怪談や都市伝説などを通じてそれらに恐怖する人間の感情を喰い、人はそれと知らずに生き続ける……。その世界のバランスは“鍵”の出現によって、あっけなく崩れ去ったのです」
そこで少女は大きく息を吸った。
……早く続けてくれよ。そろそろ耳が痛くなってきたぞ。
「……きっかけなんてものは無かったと言われています。ただある日突然現れました。恐鬼でも生物でもないモノであり、それ自体には実体はありません。“鍵”は時代も場所も越えて、ランダムに人間に宿ります。その人間と宿っている“鍵”を引き離す方法は存在しないため、宿主の人間自体も“鍵”と呼称されます」
……ふむ。分かりにくいが、前世とか来世の考え方に近いか。
「そうですね。……まあ、その恐鬼でも人間でもない第三の存在である“鍵”が現れただけなら、何の問題も無かったのですが……」
少女がまた一息つく。俺は魚を食べ終え、串をぽいっと砂浜へ投げ捨てる。よい子は真似しないでくれよ。ポイ捨てはよくない。
「長い人類の歴史の中で時折生まれてくる“鍵”は、それぞれが違う強さの力と能力を持っていたのです。……目先の欲望は力を求めるものを暴走させます」
そう言うと、少女は仰向けの俺の隣で体育座りになる。
「……“鍵”っていうのは、宿主が死んだらどうなるんだ?」
今までの会話と状況から察するに、偽物やあの黒い男が言っていた“鍵”というのは、おそらくではあるが、……戌海琴音のことだろう。俺が街から逃がしたのはあいつだけだしな。
「宿主が死ぬとその人に宿っている“鍵”も消滅します。別の人間に転移したり、なんてことはありません。どんなにその“鍵”の力が強くても、宿主が死んだり、力を求める恐鬼に取り込まれたり、宿主が狂言に踊らされて闇に堕ちたりすると、それ相応の結果になるのです」
そう言うと、少女は波打ち際を見つめ始めた。