しかし少年は苦悩する …1
ジリリリリと鳴るのは目覚まし時計、一昔前だと黒電話だ。
ホーホケキョと鳴くのはウグイスで、
夜中にブイブイいわせるのは俗に言う暴走族である。
ではここで問題だ。
ピンポーン……と鳴る物はなんだろうか。
無論、玄関のチャイムである。
では、引っ越してきた翌日の朝六時三十分にそれを鳴らしてくる不届き者は誰だろう。
無論、あの五月蠅い奴である。
――――――――――――――――HIBIKI side
正確には六時三十一分なのだが、細かいことはこの際どうでもいい。
1時間と30分前、俺は無情なる端末、ハーテッドに叩き起こされ、昨夜のことを延々と話させられた。
『無情とは何だ。我を叩き起こしておいて勝手に寝たのはどこの誰だというのだ』
端末の画面が紅く点滅する。やめろ、どこぞの怖い話か。
「だから、それは悪かった。マジで謝る」
『……まあ、いい。それで、この頭の中身がピーマンな響輝は昨夜見たものをどう解釈しているのだ?まさか、貴様ともあろう者が、幽霊……だとか思っているのではあるまいな』
「いや…。だがな、骨だぞ、骨……」
『おいおい、冒頭で信じてないと断言しているではないか』
「……お前、さてはまともに話進める気無いな?」
そして、しばらく言い争った後、予定通り、ハーテッドを俺のベルトに引っ掛け、俺は龍ヶ峰高等学校の制服を着ようとしていた。
そこで、玄関のチャイムが鳴ったのだ。
「響輝ー!出てあげなさーい!」
母が呼ぶのが聞こえる。
「はいはい」
『“はい”は一回だ』
「もうお前うっさい。しばらく黙ってろ」
いくつかの新品のノートと前から使っている筆箱を鞄に入れ、チャックを閉め、下に降りる。
……さて。我が新家には一階と二階を繋げる階段のすぐそばの壁に、インターホンからの声の主と会話できる受話器があるのだが。
受話器を手に取り、耳に当てる。
「あ、おはよう、響輝君。私だよー、戌海琴音」
素早く受話器を持ち換え、元の場所に戻す。
「ちょっ響……」
向こうには、「ガチャリ」と俺の返事が聞こえたことだろう。
弁当と朝食を貰いに、ダイニングへと足を進める。
一歩進むにつれ、ダイニングから話し声が聞こえてきた。
「どうもありがとうございます!フレンチトーストまでいただいちゃって」
…………。
……は?
おい待て。地球上の俺以外の時間、少し待ってくれ。
もちろん、そんなことできるはずもなく、ゆっくりとダイニングを覗くと、
「あら響輝。駄目じゃない、女の子を無視したりしちゃ。はい、これお弁当」
弁当を受け取り、鞄に入れていた俺は、あることに気付いた。
「母さん、俺のフレンチトースト……」
「あー。あんまりにも遅いから、琴音ちゃんにあげちゃった」
何…だと…。
「あ……あげちゃった?!」
「響輝君のお母さん、料理上手だねー」
戌海琴音がにっこり笑っている。
おい待て時間。勝手に俺を置いていくな。
というかお前、外にいなかったか?戌海琴音。
っていうか、お前コトネっていうのかよ。今の今まで知らなかったぞ。
それより、フレンチトーストは俺の大好物だぞ。勝手に食うなよ。
「どうしたの?」
戌海が訪ねてくる。
「いや……、もういい。何か突っ込みどころが多すぎてよくわからん」
『一体どうやって入った……?』
ハーテッドの呟く声が聞こえてきた。