さすれば少年は目を覚ます …3
……全く、流れについていけそうにないな。
「……えー、と。お前、どうしてそんな格好をしているんだ?」
「これは私の家の正装です。あなたが特筆して気にすべきことではありません」
よく舌が回る奴だな。
「あなたが打ち上げられているのを見た時は驚きました。泳ぐのが好きなんですか?」
「別に。苦手じゃないが」
何なんだこいつ。戌海とはまた違う意味で俺とテンポの違う奴に遭遇したぞ。……まあ、今更何が出てきても驚かないが。
少女は俺を見下ろす格好でしばらく立っていた。ちなみに俺はまだ体中が痛いので立ち上がれそうにない。
「……“逸れ者”」
「ッ……!」
その言葉が少女の口から出たとたん、身体が硬直した。
「……あなたと私は同位置に存在しています。“鍵”と最も近くにおり、それが故に影響を受けてしまっている」
……この格好を見た時から薄々感づいていたが、やはりこいつも知っている側なのか。
「……“鍵”って何のことなんだ? それから教えてくれ」
少女は少し俺の方を見、話し始めた。
「どうやらあなたはこの街に取り残されている人間で、それに“逸れ者”であるというのに、事情を一割程度しか把握していないようですね。まあ、いいでしょう……」
少女が「食べますか?」と串刺し焼き魚を渡してくる。ありがたく頂こう。
「あなたも見たり遭ったりしたと思いますが、奴らは闇に潜み、好機を練り、一説には古来に人間と同時にこの世に現れたと言われる存在です。感情という不完全なモノを持った生物が生まれてきた地球の副作用、と言ったところでしょうか……。なんにせよ、奴らのことは、姿形はそれぞれ違いますが、根本的な行動は共通しているため、知っている側の人間は“恐鬼”と呼んでいます」
“おに”……だと?
「『恐れる』に、『鬼』でおに、と読ませます。奴ら……魔の一族は共通して、人間の肉体よりも、そのターゲットの負の感情を求めて活動しています」
それを恐れる負の感情を喰う。だから恐鬼。言いえて妙だ。
確かに、俺にも覚えがある。あの夕陽が差し込む教室の中での出来事。
偽魔女は、俺を“喰う”というよりも、俺の歪んでいるらしい感情を“喰おう”としていた。
世界観の説明をすることができるキャラの登場。
ずいぶん便利です、こういうキャラ。