だから少年は冷たく歪む …6
姉さんがふっ、と表情を緩めた。
「……ふふふ、笑っちゃうよね。こんなにも、年刻みで医学が進歩している世の中だっていうのに、原因不明の病気なんて、まだいくらでもあるんだから。……全く、何の冗談よ」
姉さんが嗤う。死に際に立って、この世に対する不満を吐きだしているのだと見て取れた。
死ぬことが嬉しい生命などいるはずがない。いるとするなら、生まれてすぐの子供の餌となるコマチグモの母蜘蛛くらいのものだろう。
そこで、姉さんとの会話は中断された。
救急隊員の人が何人か入ってきて、姉さんを連れていったからだ。
彼らと一緒に来た母と親父は、俺の安否を確認すると、後を警察に任せて姉さんが運ばれていくのに着いて行き、救急車に乗って行った。
俺は警官たちの叫ぶ声と、取り押さえられている狂人の笑い声の中、ただ、ずっとその場で立ち尽くしていた。
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次に見た姉さんは白い衣を着ており、薄化粧がされた端正な顔には、安らかな表情を浮かべていた。
業者の人の話によると、亡くなってから死体の表情には、化粧以外一切手を加えていないらしい。
姉さんは病院へ運ばれて行く間、終始この表情で、自分を支えてくれた人や、親父や母の名を呟きながら、その後に「 ありがとう 」と言い続けていたという。
そして、病院に搬送されたが、間もなく息を引き取った。
事切れる直前、姉さんは俺をよろしく、と周りの人々に伝えたそうだ。
俺はとても弱いから、親だけでなく、周りの全ての人々に助けてもらわないと私の死を乗り越えられないから、と。