だから少年は冷たく歪む …3
狂人はまず、姉さんの口を塞いでいたガムテープを剥がした。
げほ、げほ、と姉さんが咳き込む。
続いて、男は俺を柱に縛りつけていた縄をほどいた。
俺は逃げようとするが、すぐに狂人にはがいじめにされる。
そして、狂人は懐から大振りの中華包丁を取り出し、こう言った。
「 殺せ 」
と。
殺せ……。言葉にするだけなら簡単な二文字表記だが、その一言に込められていたのは、紛れもない狂気だった。
「厭だ!」
と叫んだつもりだったが、俺の口はガムテープに塞がれたままだったため、ろくに声も出せなかった。
狂人が後ろから左腕で俺の首に回し、右手で俺の手を覆うようにし、それと同時に俺の手に包丁を握らせた。
さすがに何をしようとしているのか予想はついた。
俺は半泣きになりながら、狂人の腕に噛みついたり、足を蹴りつけたりしたが、何をしても男はうわの空で、
「ころせころせころせころせころせころせころせころせ……」
と呟くばかり。
足が一歩、また一歩進んでいく。
そこで俺はここ数日で初めて姉さんの顔を真正面から見た。
「――――――!」
姉さんは泣いてなどいなかった。
口を引き結び、強い表情でこちらを見つめていた。
姉さんは人一倍心の強い人だった。それは弟である俺が一番知っていた。
あんな状況でも絶望に打ちひしがれたりせず、自我を保っていた。




