だから少年は冷たく歪む …1
ここからしばらく響輝君の過去話、すなわちは彼が歪んだ理由の話になります。
――――――――――――――――――――――Re:HIBIKI side
――――夢を見ていた。ああ確か、あの日の朝も俺は良い夢を見て、気分良く起きたんだったな。
小学三年生の冬。俺はその日その時まで、近所でも評判になる程、活発で元気で無邪気な子供だった。……と記憶している。
そう、あの日までは。
前述したとおり、俺には姉がいた。名前は巽野茜。
俺が小三の時に十七歳だったから、もし今生きているなら、二十三歳くらいになっていたことだろう。
その頃、親父は新技術を生み出し、努めている会社の上層部に一気に昇進した。若手なだけに、期待も大きかったのだろう。
だが、中にはそれを妬ましく思っていた奴もいたのだ。
そして、そいつは嫉妬と嫌悪のあまり、やってはいけないことをした。
それが、“巽野家の長女、『巽野茜』の誘拐”。
しかも、のちに分かったことだが、それを裏社会のコネで、他人に依頼してやらせていたのだから、性質が悪い。
……いや、本人がやればいい、という話でもないが。
まあ、人に頼んでやらせたのだから、いろいろと不具合が生じたのは至極当然のことと言えるが、依頼した相手、こいつもまた性質の悪い狂人だったのだ。
その生じた不具合の中に最大の誤算があったとするならば、それは、“弟である『巽野響輝』に間近で姉の誘拐現場を見られてしまった”ということに他ならないだろう。
当時の俺は十歳にも満たない子供である。車に押し込められようとしていた姉を見て、
「茜姉ちゃん!」
と叫んでしまったことも責めようのない事ではあるが、結果的にはそれがまずかった。
姉さんも一生懸命抵抗していたが、誘拐を依頼されていた狂人は男だったため、力で勝てるはずもない。たちまち俺は姉さんもろとも車に押し込められ、中で身体を縛られた。
叫ぼうにも、運悪く人通りの無い道路だったし、すぐに口もガムテープでふさがれた。
そして、俺と姉さんの地獄のような二日間が幕を開けたのだ。




