そして少年は含み笑う …1
新章です。
――――――――――――――――――KOTONE side
車窓の外の景色が右に流れていく。
いつからここに座っているのだろう……。
少々濁った声でアナウンスが流れ、列車はゆっくり停止する。
終点。
私は席を立たない。
訪れる空白の時間。
そして、今度は景色が左へ流れていく。
私はただじっとその景色を眺めている。
……私は帰らなければならないのに。生まれた街に。
人のぬくもりに溢れている、あの街に――――。
――――――――――――――――――HIBIKI side
『まあ、何だ。かっこつけたはいいが、……分が悪かったな』
ハーテッドが告げる。
“影”の腕を包丁で切り付け、二歩下がる。
「ああ。どうやら俺は影についての見方を変えないといけないらしい」
靄の塊みたいな身体してるくせに、いざ切り付けてみれば、あら不思議。ちょっと刃が食い込み妙な感触とともに刃が跳ね返されてしまう。こんにゃくかよ。斬鉄剣でも斬れないぞ、全く。
防御力重視。どうりで動きが遅いわけだ。自転車でかわしきれるかどうか冷や冷やしていたのは紀憂だったようだな。
まあ過ぎた話だし、だからどうだというわけでもないのだが。
『さあ、今度こそ選択を迫られたぞ。外へ逃げるか?突っ込んで行くか?……まあ、我としてはどちらでも構わないのだがな』
何とでも言えよ。
……いや、選択が無い訳じゃないんだよな。出来そうにないだけで。
再度“影”に近づいて、包丁を頭の部分に叩きつける。
ようやく“影”の両腕が力を失ったように黒い霧となって空中に霧散していった。
これで三体目。残っているのは、あと六体。
そう思った時だった。
街側の方から、霧をぬって歩いてくる人影が“影”共の向こうに見えた。
すぐにその姿が戌海琴音のものだと気づく。
「数時間ぶりかな、響輝君……」
そいつは、戌海と全く同じ顔に笑みを浮かべる。
できれば二度と遭いたくなかった、偽魔女が、そこに居た。