そして少年は呟いた …1
―――――――――――――――――――――――――HIBIKI side
「えっ……?」
戌海琴音が驚愕に目を見開く。まあ、当然の反応だな。
―――――――『何かが動けば、必ず空気も動き、少量の風が発生するのだ』
数時間前のことである。家でポーチにバタフライナイフを入れようとしていた時に、ハーテッドが思いついたように語り始めた。
俺は手を止め、先を促す。
『ノートなどを机に叩きつけたりすると、横に風が起こるであろう? この現象は上から落ちる、あるいは下ろすものがどのような形状であっても、……たとえばバケツをひっくり返したような形でも、同一に起こるものなのだ』
「相変わらずまわりくどいな。……で、何が言いたい?」
『もし、その奴らが、人間が出入り自体をできぬよう、つまり方法はともあれ、街を物理的に封鎖してしまうのであれば、例えどのような力を使っていたとしても、内側から外側に向かって起こる空気移動は防げない、という話をしているのだ』
……何でこんな時に万有引力やら相対性理論やらの親戚みたいな話を始めるんだ。機械も遺言を残したりするのか。初耳だ。
『貴様はそもそも街を出ずに自分は死ぬべきだ、と今しがた明言したところではないか。なのにどうして外出の用意をする必要がある?』
……お前、時たま無駄に鋭いよな。黙って見ていればいいものを。
『ふん、何とでも言うがいい。貴様、共に街を出るとか何とか言って、最後の最後に自分は残るつもりなのだろう。誰に向かってその誘い文句を言うのかは大体予想がつくが、どうせ何を言っても無駄なのだろう? だからアドバイスをしてやったのだ』
「……余計な御世話だ」
こいつはいつもいつもそうだ。俺の元へ来てから今まで、ずっと、余計なことばかりしてきた。……まあ、本音を言うと、嬉しくないと言えば、半分嘘になるんだががな。