しかし前も後ろも塞がれて …5
黒い靄で形作っている人型の(といっても下半身にあたる部分には足が無く、地面から生えているだけだが)怪物は、その二メートル強の体をゆっくりと引きずりながら、こちらに動いてきていた。
数は……10体近くいるだろうか。身体を引きずる音はせず、代わりにざわざわとした蠕動を繰り返すような音が聞こえてくる。
響輝君が私の方を向く。
「……戌海。自転車に乗っててくれ」
「え……?」
促されるままに、自転車に乗らされる。
「響輝君……?」
彼は何をしたいのだろう。私を自転車に乗せてどうするつもりなのだろうか。
ふと上を見ると、いつの間にか空は赤と黒が混ざったような色の雲に覆われていた。
……いや、違う。
街の端にいるから分かった。この雲は、ドーム状に覆いかぶろうとしている。
そしてその雲は、はるか上空から街と外の境界線を蓋を被せるように降りてきていた。
あれが街を閉ざすためのものなのだろう。
つまり、もう時間は無いということだ。
響輝君がこちらに近づく。
「…………?」
すると、響輝君は、いつもの表情で、それでいて小さな声で、
「……ごめんな」
と言い、私の乗っている自転車を思いっきり、押した。