しかし前も後ろも塞がれて …3
―――――――――――――――――――KOTONE side
大柴君が殺された。
その痕跡は朝になると消えていた。
私はその後、逃げるように家に帰り、自分の部屋のベッドで震えていた。
外には出たくなかった。あの黒ローブの男が、どこかから見ているかもしれなかったから。
街はおかしくなってしまった。狂ってしまった。
古来から続き、これからも続いたであろう時間の歯車が一欠片無くなってしまったかのような、空虚。
目の前で人が殺されたのに、何も残っていない。
矛盾が思考に壁を作る。元からあのコンビニには誰もいなかったかのような錯覚に襲われる。
……いや、あそこには確かに人が居た。生きていたのだ。私が忘れてしまったら、大柴君という存在を覚えている人が居なくなってしまう。
学校には行きたくなかった。増えていく空席ををみるのが嫌になった。
中間テストが終わった(休んでいたが)翌日の昼ごろ、階下で悲鳴が上がった。
……お母さんのものだった。
……もう嫌だ、死にたい。逃げたい。でも街から逃げることもでききない。
このまま私も逃げることもできずに死ぬのか。そう思っていた時だった。
部屋をノックする音。自分を呼ぶ声。
――――どうして響輝君は私を助けてくれたのか。
迷惑そうにしていたのに。何を見たのだろう。何が彼の考えを変えさせたのだろう……。
闇に染まりゆく橋の上。こんな時だというのに、私はその疑問を頭の中で反復していた。