そして少年は到着する …4
どうやら今俺が見ているものは白いワンピースを着ているらしい。
しかも、遠目に見ても明らかに痩せている。いや、痩せすぎだ。ここから見たって短めのワンピースの裾から棒のような足が見える。
荷物らしきものは持っていない。両手をだらりとたらし、前かがみの姿勢で立っている。
いや、まあ確かに今のご時世であれば、夜道に人が立っているなんてことはありふれている。
だが、この風景には何故か違和感があった。
……いや、そもそも夜に女が一人、街灯に照らされて突っ立っている光景自体が、やはり不自然なのだろうか。
その時だった。街に一陣の風が吹き抜けた。
“それ”が身に着けていたワンピースが風に舞い、飛んで行った。
俺は一瞬、こんな真夜中に人の裸を凝視してしまうことになるのかと心の中で頭を抱えたが、ワンピースが舞った先に残った身体を見て、そんな思案は吹き飛んだ。それはもう、あっちへ逝ってしまうレベルで。
「…………!」
そこにあったのは俺が常識として知る“肉体”ではなかった。
そこにあったのは、……ただの、直立不動の、骨だった。
……ありえない。骨が立てるはずがない。
コレは見てはいけない。見ては……いけない!
……頭でそう思いながらも、俺の体は窓際にとどまったままだった。
相手が骨だからよくはわからないが、“それ”のあってないような視線の先には、隣家があった。
隣家といっても戌海の側ではない。西側の少し離れた家だ。
確か、俺よりも二ヶ月ほど前にこの街へ引っ越してきた家族がいるはず。
“それ”はそこの家の二階をじっと見つめていた。
……間違いない。“それ”はその家を何かしらの理由をもって見つめているのだ。
そう、ただ、見つめている。
それだけのはずなのに、それが無性に怖かった。
ここにきてようやく体が窓から引き離された。
体が吹っ飛ぶようにベッドへ飛び込む。
「はあ…、はあ……」
息が荒い。自分の鼓動が頭に響く。
眠っているハーテッドを叩き起こしたくなった。
……この状況をたった独りで見るのは……、あまりにも億劫だ。きつすぎる。
俺はすばやく起き上がって荒っぽくカーテンを閉め、再びベッドに飛び込んだ。
休眠している端末をぶっ叩く。
『うぐ……。何だ、いきなり』
文字通り叩き起されたハーテッドが不服そうにつぶやいたが、俺の耳にその声は届いていなかった。
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