しかし前も後ろも塞がれて …1
夕闇に染まっていく空を見ながら南西に向かって自転車を走らせる。
ゲームの主人公や、未来からアイルビーバックしてくるロボットのようにバイクで駆け抜けたりなんて芸当は一介の高一男子にはできないのさ。不条理だと心から思うね。
がらんとした道路を自転車で走る。
今のところ徐々に暗くなっていく街には、……車が一、二台しか走っていなかった。
無意識なのか、意識をしているのにそれを無視しているのか、どちらだったとしても、車が居ないのは好都合だ。
奴らがいる気配もない。
巨大蜘蛛が後ろから大量に這ってきたり、偽琴音が笑みを浮かべてナイフを投げてくることもなかった。
―――――――――西区。
この街は四区にわかれている、というのは先述したとおりなのだが、その分け方は少々いびつなのだ。
ぴったり西から来たまでを北区、西から南西にかけてを西区、南西から南東を南区、北から南東を東区、という風になっている。
この街の外は潮の流れの関係からか、南西から西にかけてが長い入り江の様になっており、西区から西の方へ街を出るには、入り江の上に架かっているウェストブリッジを抜けなければならない。
北からも山伝いに外へ出ることはできるが、西区から出た先の方が交通網がしっかりしている。
本当なら北からさっさと逃げればいいのだろうが、街を出ると記憶を消されるという話が本当なら、こちらの方が幾分か安心だ。
とまあいろいろな理由を含め、俺と戌海を乗せた自転車は西区に入り、ウェストブリッジに向かって道路を走っていた。
「……っく、えぐっ……」
のだがおかしいな。どうして俺の後ろから泣きじゃくる声が聞こえるのだろう。
いや、何となく解っていたさ。何かこいつが「一週間くらい前にね……」と後ろで話し出したあたりから、鬱話が始まるのは分かっていた。
……ふむ。どうやら俺やこいつの他にもあの赤文字が見える奴が居て、そいつと話しにいったら、そいつが無惨に殺されてしまった、と。
というか、よく生きてるな、お前。