そして始まる逃避行 …6
何に時間をかけているのか、異様に長い待ち時間に、そろそろ夢の世界へ直行しようとしていた俺の意識は、戌海琴音の呼びかけにより、ようやく引き戻された。
「ねえ、響輝君も出るんでしょ、街を」
戌海が私服に身を包み、すがるような目で俺を見る。
「……まあな」
……やめてくれ。そんな安心したような顔をするな。後が辛いだろ。
いまだにどんどんいっているドアを無視して、窓枠に手をかける。
念のため手は離さず、雨よけの上に、足を乗せる。
少し不安定だが、大丈夫だろう。
俺が先に行き、戌海に手を貸す。
多少は苦戦したものの、五分後には二人ともが地面に降りることができていた。
「う~ん……」
戌海がなるほどこれに時間をかけていたのか、整えたらしい髪に残っている跳ね毛をいじくっている。
「これでも被ってろ」
ポーチから黒い帽子を出して戌海の頭にかぶせる。
「あ、ありがと……」
どうして女は髪の毛なんかを気にすんのかね。俺にはさっぱりわからん。
俺の家に行き、車庫の奥から自転車を押してくる。
……なんて言ったか、マウンテンバイクには劣るものの、車体とタイヤの頑丈さを売りにしていた自転車だ。荷台には一見二人乗りと勘違いしてしまいそうな板が金具の上についている。まあ、これも強度を上げるためらしいが。
「荷台に乗れ」
「うん……」
間違った使い方である。まあ、この際気にしないが。