そして始まる逃避行 …2
“戌海琴音”はもうすぐこの街が閉ざされると言った。
例え今生きていたとしても、いずれは殺されるのか、戌海も。
…………。
右腕についている傷跡を見る。
自らの罪をごまかすためにガラスの破片でつけた傷の跡。
制服を脱ぎ、黒いTシャツに灰色でどこぞの飛竜らしきものをプリントされたものを着、下には黒いズボンを履く。
『何をしているのだ?』
「窮鼠が猫を噛み千切る準備をしているところだ」
『……全く。殺意にコンプレックスがあるくせによくやる……』
腰にポーチを巻き、水、カロリーがメイトなあれを二箱、そして中華包丁と、親父の書斎になるらしい部屋に置いてあった荷物まさぐり、親父が専門店で買ったくそ高いバタフライナイフを入れる。親父と母さんが結婚して間もない時に買ったらしい。新技術を思いついて親父が実業部のトップに上り詰める一年前だったとも聞いている。
玄関を開けて外に出た。
夕日が傾きかけている。
この街が閉ざされるのは恐らく日没後だ。
では、その前に……。
「戌海」と彫られたプレートを横目に、俺は隣家のインターホンを鳴らした。
……返事は無い。
ドアのカギは開いていた。恐らく偽物の仕業だろう。