それでも少年は冷酷で …10
何回もそれを繰り返していると、さすがに身体が疲れてくる。
“戌海琴音”の方は息切れさえしていない。畜生め。
「――――でもね。ここで“私”を斃しても、もう遅いんだよ」
「……何だと?」
話しかけてくるとは意外だった。
一歩退き、体を休ませる。
「もうすぐこの街は外界から遮断される。この街で生き残っている人は、じっくり、じっくり、浸食されていく」
……この街が閉鎖状態になるとでも言うのか。
「そうだよ。閉ざしてしまえば、もう“私たち”を止めるものは無くなる。街は化け物だらけになるわ」
袋のネズミ……というわけか。
「よくわかっているね。その通りだよ」
そう言うと、“戌海琴音”はけらけらと笑う。
「お前は……何なんだ……」
「私? 私は“私”。“私”はあなたの一部。あなたの恐怖が生み出した、幻影」
俺の一部……。
さっきこいつは、俺が最も恐怖しているのは、、身近な人に真実を知られることだと言った。
……つまり、何だ。つまりこいつは、妄言で俺を惑わし、この教室で意識をじわじわと奪っていき、 その言葉で俺を絶望に堕とそうとしていたのか。
いや、そんなことよりも、俺の『身近な人』、それが母でも親父でもなく、戌海琴音だったことに驚きだ。
俺はアホか。そんなに戌海に思い入れがあったのか。
……まあ、そんなことはどうだっていい。
身体の疲労と相まって、自分の殺意が倦怠な感覚に浸食されていく。
気を抜けば、これに動きを止められるのか。
……くそっ。八方とはいかないが、四方くらいは塞がれた気分だ。
あはははは――――とまた“戌海琴音”が虚空に向かって狂笑を放つ。