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それでも少年は冷酷で …9
もう不意打ちは使えない。だが、死にたくもない。
眼を閉じる。
……考え直せ、巽野響輝。思い込むんだ、いや、思い出せ。
目の前にいるこいつが、殺したんだ。こいつの同類が、松阪さんを殺したんだ。
あの日の自分を思い出せ。あの忌々しい男を殺したあの時の、頭の中が沸騰するような感覚を。
殺せ。
殺せ。
コロセ……。
目を開ける。目の前に居るのは、敵。斃すべき、敵。
「…………」
目の前の目標をにらみつける。
「……?」
“戌海琴音”が面白そうに微笑を浮かべ、小首をかしげる。
「……を、返せっ!」
その瞬間を待っていたかのように、身体がふっと軽くなる。
殺せ……。
ツーステップで距離を詰める。体重を乗せて包丁を振り下ろす。
ガギィッ……
サバイバルナイフと包丁の刃が交差する。
殺せ……。
「あはっ、あはははははははは――――」
“戌海琴音”のキーの外れた、狂ったような笑い声をBGMに、二つの刃がぶつかり合う。
俺が叩きつけ、“戌海琴音”がナイフで受け、
“戌海琴音”が裂き、俺が包丁や椅子で受ける。