そして少年は到着する …3
この物語は基本主人公視点で進みます。たまに主点が変わります。
包み隠さず言おう。
……引っ越した初日は散々であった。
あの戌海とかいう奴がやっと帰ったと思ったら、今度は自分の家に来いと言うのだ。なんでも御馳走してくれるらしい。
だが断った。俺はこの選択を間違っていたとは思わない。
しかし、何も事情も知らない(いや……、母には、戌海が典型的な“良い子”に見えたに違いない)母にそれを知られてしまい、その後はどこぞの軍人も爆笑しそうな立てこもり作戦を俺が実行し、それは母が俺があの系統の、常に俺と炎と氷並みの温度差がある人間を苦手としている、というか嫌いであることをやっと思い出すまで(というか夜まで)続いたのである。
その上、俺は国立である龍ヶ峰高等学校に明日から通うのだが、そこにはその戌海も通っているのだ。
結果、俺はあのうるさいのと一緒に明日から登校することになったのである。
ともかく、今日一日いろいろありすぎて、俺はすぐに眠ってしまった…。
……とはいかず、なぜか眠れずに俺はハーテッドと話していた。
『眠れぬか』
「ああ」
そもそもお前には眠るなんて概念はなかろうに。気を使うなと何年も前から言っているだろうが。
『そうか、そんなにわくわくしているのか』
「あぁ……ぁあ?」
『ところで、この街の夜風は生ぬるくて気持ち悪いな』
俺の渾身の返答が流された。まあそんなことはどうでもいい。
「それもそうだな。……窓閉めとくか」
面倒くさいが気分が悪いのはもっと不快だ。ゆっくりと立ち上がり、夜風に揺れるカーテンのほうへ歩く。
そして、カーテンを閉めようとした。……が、俺はその手を途中で止めていた。
『どうした』
ハーテッドが怪訝そうに訊く。
「何してるんだ?……あれ」
この新家にある窓の中でも比較的大きな俺の部屋の窓からは、生け垣と向かいの空き地の間にあるごくごく普通の道が見下ろせる。
少し離れたところに、電柱に取り付けられた蛍光灯が一つ。
その小さなスポットライトの中に、人影が見えた。
「何やってんだ、あんなところで……」
一瞬、人形かと思った。それほどまでに、その人影はひっそりと、音もたてず、身じろぎもせず、ただ、一点を見つめて立っていた。
振り向くと、ハーテッドは既に休眠してしまっていた。いや、休止状態というべきか。
しだいに目が慣れ、俺の目が人影の後ろになびく髪の毛をとらえた。
「女……?」
ハーテッドに言うでもなく、俺は独り、つぶやいた。