それでも少年は冷酷で …8
やはり、俺は復習を果たした後でさえ、姉さんのことを吹っ切れていなかったらしい。
包丁とナイフの二刀流になった“戌海琴音”が二本の刃を交差させる。
「さあ、響輝君……、死んでっ!」
片膝をついている俺に向かって、“戌海琴音”が突っ込んでくる。
何とか右足を動かし、姿勢を低くして、足払いをかける。
「……っ!……」
完璧に油断していた“戌海琴音”が足を滑らせ、ジャンプして俺の真上を通り過ぎようとする。
とっさに身体を倒した状態で反転させ、左足で真上にある“戌海琴音”の腹を蹴りつける。
「がっ……」
“戌海琴音”がうめき声を上げる。
その左手に握られている中華包丁の柄をその手の上から握り、全力で手から抜けさせる。
“戌海琴音”が教室のドアに叩きつけられている隙に、窓際へ退く。
これで、両者の位置が入れ替わった形となった。
「くくくくくくくくく…………」
“戌海琴音”がドアに手をかけ、ゆっくりと起き上がる。
こちらに包丁。あいてには大型の……おそらくサバイバルナイフ。
「くくくくっ……。面白いよ、面白い人。だから、響輝君のこと、だーい好き! 食べちゃいたい!」
「俺はお前みたいな奴なんざ、大嫌いだっ!」
再び駆けだし、“戌海琴音”向かって、すぐそこにあった机を投げ飛ばす。
「ふふっ」
“戌海琴音”はその机を軽々と飛び越え、再びドアの前に後退する。
……人間じゃねえ。