それでも少年は冷酷で …6
……こいつは戌海琴音の形をした“何か”だ。
では、なぜこいつは俺を狙った?
……おそらく、狙いやすかったから。
俺程に世間で孤立しているやつもそうはいないだろうしな。
こいつは、あのT字路で見た“黒衣”や隣家を亡くした“骨女”とおそらく同類。
学校に居る間はハーテッドと雑談ばかりして、ほとんど周りを気にかけていなかったが、
思い返してみれば、学校へと登校してくるクラスメイトは日に日に減っていた。
担任も日を追うにつれ、だるそうな表情になっていたし。
商店街の中にも、テスト期間の間にずいぶんとあの赤い文字の書き込まれたシャッターが増えていた。
俺が、周りを拒絶していたから。見ていなかったから。
何もしなかったのだから。いつもの様に。
『いつも』ではない中で『いつも』のように振る舞っていた、俺の所為。
俺がこうして今、わけのわからない状況に立たされているのも、俺の所為。
後ずさり、ドアをスライドさせようとするが、ドアは空間に固定されたかのように、ぴくりとも動かない。
“戌海琴音”がその紅の眼で俺を見る。
「そう。響輝君は本当はわかってる。この今も、あの日のことも、全部、自分が招いたことだって、分かってる」
そうだ。俺はわかっていた。姉さんが誘拐される現場を見た時、隣家から人が居なくなっているのを確信した時。
あんな、こんな様なことになるとわかっていたのだ。
……なのに何もしなかった。知らないふりをした。殻の中に閉じこもっていた。
「ね、分かってるでしょ。何もしなかった響輝君は、こうして私に食べられちゃうの。めでたし、めでたし、だよ」
ああ、そうだな。何もしなかった俺は、孤立していた俺は、真っ先に殺られちまうんだろうよ。
……でもな。あいにく俺は、不可抗力で一人、自らの意志で一人。
今までに二回も、人を殺しちまっている、狂った野郎なんだぜ?