それでも少年は冷酷で …3
夕日の差し込む教室。
ドアをスライドさせて開けると、窓際の一番後ろの席に腰かけて、こちらを向いていた。
というか、何で来てるんだ、俺は。ここは無視するところじゃないのか?
……言い訳するわけじゃないが、放課後になると、自然と足がこの空き教室に向かっていた。本当だ。
「ねえ、響輝君ってさ」
戌海琴音が立ち上がり、夕日の方――窓の外――を視る。
「……一目惚れってしたこと、ある?」
一体何を言い出しやがる。
俺は万年彼女拒否中のはずなんだが、何か?
「私はね……、しちゃったんだよ。響輝君に」
「……」
何も言えない俺。
戌海は振り向き、ゆっくりとこちらに歩いてくる。
「響輝君のこと考えてるとね、ここがさ、痛くなるんだ。ギギーって」
擬音最悪じゃねえか。錆ついてんのかよ、お前の心臓。
戌海が俺の目の前に立つ。距離が近い、近すぎる。
「ねえ、響輝君」
「…………」
流せない。この教室の空気が……、いや、俺の意識自体がだんだんと琴音に吸い寄せられていく。
感覚が、俺の思考を妨げる。
「返事はいいよ。必要無い。……ほら、私の眼を見て」
そう言うと、戌海は両腕を俺の首の後ろに回してきた。
至近距離で琴音が俺を見つめてくる。
目を逸らせない……。何だ? この感覚。
……身体が縛られていくような……。
外から差し込む夕日をシルエットに、琴音のまるで椿の花のような紅の両目が俺の顔を見ている。
…………紅?