そして少女は明日を恨む …1
おそらく大柴君の兄は蛇が苦手なのだろう。ましてや、それが等身大になって自分を襲ってきたら、悲鳴を上げてしまうのは条理と言える。
私だって、あの高速移動昆虫『G』に迫られたら悲鳴を上げる。間違いなく。
「兄さん……」
力無く、呆けたように立ち尽くしていた大柴君が、右手の重みに気付いたように、その場でしゃがんだ姿勢をとった。
両手持ちでニューナンブを構え、弾の装填を確認する。
「……ちくしょうっ!」
発砲。続けざまに三発の銃声が店内に鳴り響く。
かち、かち……
残っていた三発の弾丸を撃ち尽くした拳銃が覇気のない音を立てた。
大柴君が前を見据える。
ゆっくり前に目を向けると、光沢のある“蛇”の胴体に三発分の風穴が空いていた。……素人の割に大した腕である。
その銃創から、赤黒い液体がドロドロと流れる。
“蛇”の頭部がカミソリのような斬歯の覗く口を大きく開けたまま、血だまりにどちゃっ、と落ちた。
明らかに死んでいた。“蛇”も、大柴君の兄も。
少し前方で大柴君が両手を床に付き、嗚咽を漏らしている。
心に不快な悲しみが浮かんできた。
……目の前で人が死んでいる……。
その現実は、私の心を執拗に抉ってくる。
「大柴君……」
歩いて彼の元へ寄ろうとした。
しかし、私の足は、その一歩を踏み出そうとしたところでぴたりと止まる。
――――――――――――――シュル……。
衣擦れのような、革靴同士が擦れたかのような、音。
それが耳に入り、私は反射的に体を凍りつかせた。
背筋に寒気が走る。
まさか……。
大柴君も聞こえたらしく、視線を音のした方向に向ける。
シャー……、とつい先ほど聞いた、ため息のような音がする。
眼前の死んだそれのものではない。その死んだはずの“蛇”の鳴き声と同じ音は、頭上からしていた。
上を、天井を、ゆっくりを見上げる。