されど少年と少女、逸れ者と鍵 …8
ずいぶん投稿が遅くなりました。申し訳ありません。
これは、不味い。
かなり不味い。
焦りが妙に冷静な自分の中を支配していく。
「くぅ……ッ」
四方から飛び交う“光球”を小太刀で受け、斬り、叩き落とす。
「他愛もないな、人間。“逸れ者”といえども、不完全である以上、私に勝てる可能性など皆無だ」
「ほざけ!」
明らかな戦力差。実力も場数も圧倒的にこちらが不利だ。
それでも。
「……」
戦わなければならない。
次第に余計な感情はなくなり、心にはただ虚構だけが残る。
神経と運動が直結し、目に見えることから瞬時に理解し、体を動かす。
常に四方から攻撃を受け続けるのだ。
もはや視界に映るものでは状況を判断しきれない。音と空間認識で状況を把握し、上へ横へと移動して相手の攻撃を避け続ける。
「どうした? 逃げているだけでは味がないぞ」
「黙れッ!」
「つまらんな、“逸れ者”」
「黙れ黙れ黙れ黙れッ————!」
思考は行動を鈍らせる。考えるな。動け。
空を裂く音に反応し、後ろから飛来した“光球”を叩き落とし。
視界の端に光が映れば、そこに向かって小太刀を刺突する。
弾けるような金属音に、耳障りな破裂音。幾重もの音が交錯し、不協和音が聴覚を支配していった。
「————らアッ!」
横なぎに一閃。二つの“光球”を破壊する。
だが、引き寄せてからの攻撃、という考えが甘かったことを俺はすぐに思い知った。
相手が多数でかつ自分が逃げられないなら、いかに一撃で複数の相手を攻撃できるかが戦闘において最も重要だ。
その状況を打破する一番簡単な方法は、相手を引き寄せ、そこにカウンターを加えて複数の相手を攻撃する、というもの。
……だが、相手はただ迫ってくるだけの球ではない。
「なっ!?」
切り裂いた“光球”が無力化する寸前、激しくスパークし、火花を飛び散らした。
近い。顔を背ける暇もない。
一瞬、視界が真っ白になり、なにも見えなくなった。
……そして。当然、その隙を“支配者”が逃すはずもなく。
「——詰み、だ」
視界が戻る数瞬。
腹を貫く違和感。
視界がはっきりした俺が目にしたのは、
……自分の腹から突き出ている、一本の小太刀、だった。
——————————————————ロストランド 大観覧車、頂上
ロストランドの中心にそびえる大観覧車。
その頂上にある扉の壊れたゴンドラの中で、戌海琴音は一人、座席に腰を下ろしていた。
——ふと、顔を上げる。
はるか目下からこちらへ近づいてくる強大な気配。
“支配者”だ。
「……」
顔を上げたとて、前髪が垂れているせいで表情は窺い知れない。
ただその口元には、うっすらと笑みを浮かべていた。