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Lost Days  作者: 陽炎煙羅
九章 Holy terror~そして憎悪は紺碧の空に~
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されど少年と少女、逸れ者と鍵 …7

 つまるところ、巽野響輝の一番の異常性はそれだ。

 何が原因かはわからない。彼が特殊な人生を送ってきたことは確かだが、それが“漆黒化”の疑似的な制御に関わるとは考え難い。性格も難ありだが、はたして人格程度のことで法則が揺らぐだろうか。

 ……いや、法則というよりは定義に近いだろう。光より速いものはない、とは定義であり物理的計算式に用いられる法則だ。かといって、この世に光より速いものが存在しないとは断言できない。そんな感じだ。

「……」

 矛盾、と言えるのだろうか。

 “恐鬼”に対抗するにはまず強靭な精神、つまり心が不可欠だ。奴らの醜悪な外見や接触に恐怖を抱けば、すぐに心を喰われる。

 “恐鬼”に打ち勝つには心が不可欠。だが、私は今自分の心に逆らっている。

「はあ……」

 思考はこんがらがるばかりか、複雑さを増していく。

 堂々巡りですね、と独り言を漏らすと、答えるように遠くで銃声が響いた。



――――――――――――――――HIBIKI side


 いくら歩いただろうか。


 いくら斃しただろうか。


 いくつの遺骸を踏み抜いただろうか。


 ようやく俺は濃い霧を抜け、大観覧車の根元にあるレンガ敷きの広場にたどり着いた。

 地面にはそこかしこに戦闘の後であるえぐれた痕や、粉砕されたレンガが転がっている。

「この上、か……」

 はるか上空にはもう動いていない観覧車の頂きが見えるはずだが、“街”の雲は低いらしく、観覧車の頂上部ですら、赤黒い雲に呑まれて見えなかった。

 なぜ戌海があんな行動をとったのかはいまだに理解できていない。だが、そこに本物の戌海が居る以上、俺は行かなければならないのだ。

 血がこびりついた小太刀をふと見る。刃先が怪しく光ったように感じ、同時に俺は覚悟を決めていた。


 ……いる。

 改めて辺りを見回し、自分の周りを絶大な圧迫感が覆っていることに気付く。

「姿を見せないつもりか?」

 虚空に問いかける。相手からの返事はもとより期待していない。


 しばらくあたりを見回していると、ふと、聞き覚えのある靴音が耳に響いてきた。

 かつーん、かつーん……。

「まさか貴様一人とはな、“逸れ者”」

 薄闇の中から姿を現した“支配者”が悠々と告げる。

「生憎様だな。ソロプレイ中だ」

 憎々しげにその方向を向いて答えると、

「せっかく貴様らの数字に合わせて少し仕込んでおいたというのに、」

 という声が背後から聞こえ、俺は素早く振り向いた。

「ッ!?」

 前と後ろ。“支配者”が二人いる。

「これでは、まるで袋叩きではないか」

 さらに、右方から声。

「……分身の術でも覚えたのかよ」

 背筋を厭な汗が伝っていくのを感じながら呟く。語尾はすこし震えていた。

「もとより“我々”はそういう存在だ」

 そういうと、三人の“支配者”は同時ににやりと笑った。

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