されど少年と少女、逸れ者と鍵 …3
「それで、ここはどこなんだ?」
部屋の窓際に立っている鈴に向かって、出入口に立っている俺が話しかけた。
見回すだけでも壁紙は剥がれ落ち、天井にもコンクリートがむき出しになっているのがわかる。
「ここは遊園地のスタッフの休憩所でもあり、食堂、事務所などがある、いわゆる裏方の建物です」
ああ、確かにあるな。そういうの。
なるほど。建物の老朽はここの人の多くが“恐鬼”に喰われた結果ということか。
「そうですね。ここは三階、倉庫や書類が置かれる部屋が多い階です」
背負っている大鎌の柄の部分を撫でながら、鈴がこちらを向いた。
「どうします? もう行きますか?」
何気なくかけられた言葉だったが、そこにある意味は重要だ。
行きたいと言えば、行きたい。だが、まだ焦るべきかそうなのかすら分かっていないのだ。
「観覧車の下、お前らの戦闘はどうなったんだ?」
まずは情報だ。俺の方は大体察しがつくだろうから後でいいだろう。
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「……成程、な」
「……」
鈴は話す途中から俯いてこちらを向いていない。よほど悔しかったのだろう。
復讐する相手が完全にこちらの弱みを握ってしまった、か。要するに勝ち目がないということだ。
「浅滅はどうなった? 無事なのか?」
「……無事、ではないですね。今は隣の部屋に寝かせています。意識が戻らないんですよ」
「よほど爆発の衝撃が強かったか……」
「そのすきに“支配者”に何かされたか……」
俺に続いて鈴が口を開く。
「あなたが傷が癒えていなくても、“支配者”に挑んでいくのは分かっています。……でも、私は……」
少し震えながら鈴が言う。
「……その場に立ち合わせても、私には出来ることがない。足手まといなんです、よ……」
無力感、絶望。勝ち目がない戦いには挑みようがない。
「……ですから、私はここで鳩丘梨菜と“魔弾”を守る役に徹しようと思います」
「……いいのか?」
本当ならここで頷いてやるべきなんだろう。だが、違和感が胸をかすめたのだ。
状況を考えれば確かに鈴を置いて行くのが正解のように思える。
……だが、それでは何かこう、歯車が噛み合わないというか、いけない気がするのだ。
「それは……」
鈴が言葉に詰まる。やはり鈴も、戦いの場に赴きたいのだろう。
それを出来ないもどかしさが今の鈴を迷わせている。
「それは私だって、行けるものなら行きたいですよ。でも……ッ!」
言葉を続けようとした鈴が急に口ごもり、左肩を抑え出した。
その仕草を見て、俺は観覧車での“クエレブレ”との戦闘を思い出し、鈴の左腕に巻かれている添え木と包帯に気づいた。