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Lost Days  作者: 陽炎煙羅
九章 Holy terror~そして憎悪は紺碧の空に~
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されど少年と少女、逸れ者と鍵 …3

「それで、ここはどこなんだ?」

 部屋の窓際に立っている鈴に向かって、出入口に立っている俺が話しかけた。

 見回すだけでも壁紙は剥がれ落ち、天井にもコンクリートがむき出しになっているのがわかる。

「ここは遊園地のスタッフの休憩所でもあり、食堂、事務所などがある、いわゆる裏方の建物です」

 ああ、確かにあるな。そういうの。

 なるほど。建物の老朽はここの人の多くが“恐鬼”に喰われた結果ということか。

「そうですね。ここは三階、倉庫や書類が置かれる部屋が多い階です」

 背負っている大鎌の柄の部分を撫でながら、鈴がこちらを向いた。

「どうします? もう行きますか?」

 何気なくかけられた言葉だったが、そこにある意味は重要だ。

 行きたいと言えば、行きたい。だが、まだ焦るべきかそうなのかすら分かっていないのだ。

「観覧車の下、お前らの戦闘はどうなったんだ?」

 まずは情報だ。俺の方は大体察しがつくだろうから後でいいだろう。



―――――――――――――――――――――。

「……成程、な」

「……」

 鈴は話す途中から俯いてこちらを向いていない。よほど悔しかったのだろう。

 復讐する相手が完全にこちらの弱みを握ってしまった、か。要するに勝ち目がないということだ。

「浅滅はどうなった? 無事なのか?」

「……無事、ではないですね。今は隣の部屋に寝かせています。意識が戻らないんですよ」

「よほど爆発の衝撃が強かったか……」

「そのすきに“支配者”に何かされたか……」

 俺に続いて鈴が口を開く。

「あなたが傷が癒えていなくても、“支配者”に挑んでいくのは分かっています。……でも、私は……」

 少し震えながら鈴が言う。

「……その場に立ち合わせても、私には出来ることがない。足手まといなんです、よ……」

 無力感、絶望。勝ち目がない戦いには挑みようがない。

「……ですから、私はここで鳩丘梨菜と“魔弾”を守る役に徹しようと思います」

「……いいのか?」

 本当ならここで頷いてやるべきなんだろう。だが、違和感が胸をかすめたのだ。

 状況を考えれば確かに鈴を置いて行くのが正解のように思える。

 ……だが、それでは何かこう、歯車が噛み合わないというか、いけない気がするのだ。

「それは……」

 鈴が言葉に詰まる。やはり鈴も、戦いの場に赴きたいのだろう。

 それを出来ないもどかしさが今の鈴を迷わせている。

「それは私だって、行けるものなら行きたいですよ。でも……ッ!」

 言葉を続けようとした鈴が急に口ごもり、左肩を抑え出した。

 その仕草を見て、俺は観覧車での“クエレブレ”との戦闘を思い出し、鈴の左腕に巻かれている添え木と包帯に気づいた。

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