けれど所詮は人の内 …3
出入り口のドアが開け放たれ、ガラスは粉々に砕かれている。
「……なんだ、これ……」
大柴君も、何が起こったのか解らないという風に、その場に立ち尽くしていた。
寒い。
身体が震えていることに気付いた。破壊されたドアから生ぬるい夜風が流れ込むが、店内の冷気に押し戻される。
錆びた鉄を思わせる臭いが鼻をついた。
……血の臭い。
ぴちゃ、ぴちゃ……。
店内の奥の方から物音が聞こえてきた。何かをなめているかのような音。
身体が言うことをきかない。
足元を見下ろすと、地面をこすったような血の跡が奥に続いている。
数メートル奥の棚。こちらからは死角になっている、その奥の棚から、音は聞こえていた。
大柴君が血の跡を追って歩き出す。
「行っちゃだめだよ!」
私の声が聞こえていないかのように、朦朧としたような目で大柴君は歩いていく。
何が待っているかなんてわからない。でも、絶対良い事じゃないに決まっている。
それでも見ずにはいられない。
これ以上この街の狂気に触れたら、もう理性を保っていられないのに……。
私は大柴君について歩いた。足運びが重い。
大柴君が棚の向こうの方を向く。
彼の肩がびくっと震えた。
おそるおそる大柴君の横から前を覗く。
視界に入ったのは、紅い海。
血の……海だ。