そして黒い空は闇に沈む …9
鈴が何かを言い終えると同時に、力尽きた“クエレブレ”が浮遊力を無くしてがくんと空中を落下しはじめた。
全力で喉に突き刺した大鎌は抜けないらしく、その動きに連動して鈴も落ちて行く。
「鈴ッ!!」
ここからでは何もできない。手が届く距離でないのは前述の通りだ。
落ちて行く鈴が一瞬こちらを向き、唇が動く。
短い単語だった。俺でも読唇出来るくらいに、簡単な言葉だった。
……『がんばれ』。
「……ッ」
しばらく黙って、拳を握りしめる。
……いや、まだだ。鈴の耐久力を舐めてはいけない。それに、今は下に浅滅が居る。
「……やるしか、ないか」
鈴の表情に諦めの文字は無かった。つまり、自分がまだ戦えるということを伝えたかったのだ。儚さも感じなかった。絶望も見えなかった。大丈夫、大丈夫だ。
「……」
いくら自分を言い聞かせても、心配は止まらない。心臓は早鐘を打ち鳴らし、背筋には嫌な汗が流れていた。……いつの間にか、自分でも気付かずに行動していたが、俺の中で祗園鈴という存在はここまで大きなものになっていたのか。
恋愛感情ではない。もっとなにか……良い言葉が見つからないが、形容するなら“絆”のような、そんな何かだ。
……今は、行くしかない。
そう考え、俺は次のゴンドラに飛び移った。
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強風も止み、再び生温かい風の音が不気味に響く中、俺は大観覧車の頂上部にたどり着いた。
戌海が居るであろうゴンドラは大体見当がついている。上に登っていく途中で見えた、扉の壊れたゴンドラだ。
勿論罠である可能性も捨てきれないが、確かめないことにはどうにもならない。
そう思った時だった。
壊れた扉の無いゴンドラから、戌海琴音が顔を覗かせた。
「ッ……!」
戌海は疲れ切ったような顔をしている。
周りに敵の姿は見えない。戌海を連れ出すなら今だ。
そう考え、俺は出来るだけ素早く移動し、ゴンドラの上に移動すると、両腕で体を支えつつその中に入った。