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Lost Days  作者: 陽炎煙羅
九章 Holy terror~そして憎悪は紺碧の空に~
242/261

そして黒い空は闇に沈む …8

「ッ……」

 直視できないほどの衝撃だった。目の前で交通事故を見た人はこのような心境なのだろうか。

 だがさすが“狩り人”である浅滅が評するだけの実力を持っているだけある。鈴は左腕を折られて腹に突進を受けてもまだ屈してはいなかった。

 身体の芯に“クエレブレ”の突進を受けながらも右手に持った大鎌は離さず、その腕を下げ、鎌の刃を“クエレブレ”に向けた。言い方は変だが、もはや正常な神経ではない。左腕を折られたうえに身体におそらく何百キロ分もあるだろうエネルギーを受けてなおその意識を保ち、まだ反撃を繰り出そうとしているのだ。

 並みの精神力ではない。改めて鈴の覚悟や過去に背負った物の重さを垣間見た気がするな。

 だが“クエレブレ”はまだ止まらない。そもそも形状からして突進してくる以外の攻撃方法は見当たらないのだから当然だが。

 その勢いに乗せて、鈴が下ろした右手に持った大鎌を下から振り上げた。その刃は“クエレブレ”の下顎を通り越して、()に突き刺さる。

「……」

 言葉を発する暇はない。脳味噌はただ目の前で起きる出来事を整理していく。

 狙っていたのか、好機をつかんだのか、鈴は大鎌を“クエレブレ”の表皮の中で唯一やわらかい喉を突き刺すことに成功した。だが、仮にこれで“クエレブレ”に致命傷を負わせたとして、問題はそのあとだ。

「鈴……ッ」

 予想通り急所だったらしい喉を貫かれた“クエレブレ”がその長い身体を空中で激しくうねらせる。鎌の刃を抜こうとしているのかも知れないが、鎌の刃は基本的に弧を描いており、その上今度は肉に突き刺さっているのだ。そう簡単には抜けない。ようやく“クエレブレ”の直線状から離れた鈴は右腕だけで鎌の柄に掴まり、クエレブレの下にぶら下がっていた。

 様子を見るに、“クエレブレ”はもう限界なのだろう。だがこの巨躯を持つ飛行生命体がその命を失ったらどうなるのか……。

 結果は目に見えている。死んだ“クエレブレ”はおそらく飛行能力を失い、落ちるのだ。

 “クエレブレ”がもがいたことにより、鈴がぶら下がっている空間は観覧車に手が届く範囲では無い。

 つまり、このままでは……。

「鈴も、落ちる……」

 しだいに力を失っている“クエレブレ”の動きが鈍っていく。おそらくその動きが完全に停止した瞬間、その身体は鎌を突き刺した鈴ごと地面に落下していくのだ。

 ふと、片手で鎌の柄に掴まっている鈴がこちらの方を向いた。

 手が届かない範囲とはいえ、表情は見える。鈴は汗で髪の張り付き、疲れきった顔をこちらに向けている。

 そして……視線が合った。

「――、―――」

 鈴の口が何かを呟く。表情は見えても俺は読唇は得意ではないため、何と言っているのかは分からなかった。

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