そして黒い空は闇に沈む …6
「それでは響輝さん、ご武運を」
「お前もな。落ちて死ぬとか冗談じゃないからな」
「全くです」
ゴンドラの端に経った鈴が頷く。
「ではまた後で」
「ああ」
闇夜の空気を切る音が近づく。大観覧車の周りを飛んでいる“クエレブレ”がこちらに近づいているのだ。
風切り音が近づき、残り数秒で俺達の目の前を通り過ぎるほどの距離になった瞬間。
鈴はその場から一歩分空中に跳ね、空中にその身を投げ出した。
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身を投げ出した鈴は空気抵抗を受けながら空中を落ちて行く。
急に、それまで万歳の姿勢を保っていた鈴が空中で姿勢を変え、夜闇をにらんだ。
つられて視線を向けると、目標が自分の領域に入り込んだと察知した“クエレブレ”が鈴に向かって飛んできているのが見えた。
鈴からは、「私が飛び降りたらすぐに走ってください」と言われていたが、いかんせん俺は心配性な訳で。
それに、何か不測の事態が起こらないとも限らない。……まあ、言い訳だが。
上から見る“クエレブレ”の飛行する様はまさに新幹線のようで、ただ一直線に獲物の方へ飛んでいた。
その頭部から鋭い牙が覗き、大口を開けて空中にいる鈴に食らいつこうとした瞬間。
「ッ!!」
空中で身をひねった鈴が両手持ちの大鎌の刃を、ちょうど自分の真横に来たゴンドラに突き立て、そのまま勢いを利用して鉄棒の逆上がりのように、軌道を観覧車のゴンドラが描く円周の内側に変えた。
獲物が視界から急に消えても“クエレブレ”は直進を止めない。だが、獲物に喰らいついた感触を得られなかったことに一抹の不信を抱いたらしく、その速度が少し緩まる。
一方で、ゴンドラの連結部分に鎌を引っ掛けた鈴はその刃と連結部分を中心に、ぐるりとオリンピックの鉄棒選手のような速さで円を描くように動いた。続いて、不完全な弧の形をしている鎌の刃が回転途中で引っ掛けた連結部分から外れ、その身が落下の勢いを殺さずして再び空中の元の位置に投げだされた。
空中で鎌の刃の向きを変えた鈴が、スピードを落としてその場を飛び過ぎようとしていた“クエレブレ”の背中に振りかぶった鎌を突き立てる。
「……」
驚愕で空いた口が塞がらない。尋常ではない瞬発力と運動能力だとは思っていたが、これほどまでとは。
背中の異物の気配に気付き、“クエレブレ”が飛び回りながら身をよじる。
上手く刃が鱗に引っかかっているらしく、
鈴は振り落とされずに耐えていた。