そして黒い空は闇に沈む …4
「こちらに有効打はありません」
凛とした表情で鎌を握り直し、鈴が言った。
「ですが、有効打を作ることは可能です」
「……どうするつもりだ?」
足元は正直安定しているとは言い難い。竦みの状況であることも変わりない。
有効打を作る、とはどういうことなんだ?
「こちらに攻め入る方法がない以上、できることは一つです」
つまり……カウンターか。
「そうです」
それしかない、と言いたげな表情で鈴が立ち上がった。“クエレブレ”が空中を移動するたびに吹き荒れる強風が彼女のポニーテールを激しくなびかせる。
だが、カウンターと言っても何をするつもりなのだろうか。太さはそれほど無いとはいえ、“クエレブレ”の身体はかなりの長さだ。
「あの巨体に対して、どう攻撃を叩き込むつもりなんだ?」
「響輝さんの小太刀ではリーチが足りませんし、銃は通用しません。現時点で最も頑丈でリーチもあるのは私の鎌だけです」
確かにそうだ。だが鎌は近接武器な上に立ち回りも必要になる武器だぞ。よほど良い状況でないと……。
「だから、それを作り出すんです。……私に考えがあります」
そう言うと、鈴は何かを決めたかのような表情をして、俺に“作戦”を話し始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーRe:HIBIKI side
「では、ご武運を」
「それはこっちの台詞だ。必ず決めろよ」
「分かっていますよ、響輝さんは心配性ですね」
こちらに向かい合い、夜闇に背を向け、鈴は穏やかに笑った。……いや、俺の目にそう映っただけで、実際は普通に俺をからかっただけだったのかもしれないが。
「では……行きますッ!」
そう叫ぶと、鈴はその場からトンッと一歩後ろに跳ね、ゴンドラから夜闇に身を投げ出した。
ーー鈴の話した“作戦”は、俺の予想斜め上を行く意外なものだった。
「とりあえず、これを見ていて下さい」
そう言うと、鈴は一つ後ろのゴンドラに戻り、上から鎌でゴンドラの扉を剥ぐと、それを空中に投げ捨てた。
しばらく、闇を落下していく扉を見ていたが、数秒後、動きがあった。
「!?」
強風と轟音が空気を揺るがし、“クエレブレ”が獲物を襲うまさに猛獣の勢いで、
それに食らいたのである。
「……予想通りですね」
すぐ隣に戻ってきた鈴が、“クエレブレ”の顎に砕かれていくゴンドラの扉を見ながら、落ち着いた声で言った。