そして黒い空は闇に沈む …3
「な、何をするんですか!」
いきなり頭を押さえつけられた鈴が抗議の声を上げるが、それはすぐに轟音によってかき消された。
それに気付いた鈴が急に口を閉じる。
「そう。直接俺達を攻撃して足止めするしかない、というわけだ」
「……すいません」
ようやく、自分が“クエレブレ”の空襲から逃れたことに気付き、鈴がしゅんとしたように謝る。
「どうした? らしくないな」
何かテンションが下がるようなことでもあったか。いや、あったとしても色々起こり過ぎたせいでどれなのかは分からないが。
「いえ。ただ……」
再び迫った“クエレブレ”の長い胴体を避けながら鈴が言った。
「正直、響輝さんを甘く見ていました」
「は?」
いきなり何だよ。どういうことだ?
周囲を警戒しつつ、闇に紛れた“クエレブレ”の動きを追いながら、鈴は話を続ける。
「“逸れ者”としても不完全ですし、同じ目的を持っている私が言うのもなんですが、響輝さんの生き方はお世辞にも良いとは言い難いものです」
悪かったな。仕方ないだろ。
「一般論ですよ。ただ、私個人としては、響輝さんはやっぱり良い人で、凄い人なんだな、と思うんです」
……どうした。頭でもぶつけたのか。
いきなりそんなことを言いだしたりして。今は戦闘中だぞ。
「はい、そうなんですけど、何となく……。
もしこんな運命に縛られたりせず、響輝さんが普通の人生を暮らせたなら、きっと良い人生を送れたのではないかと思うんです。優れた現場判断力や冷静さも持ち合わせているし、“逸れ者”の効果が上乗せされているとはいえ、運動能力も持っている。でも、あなたが今いるのは戦場だ。死と怨嗟に塗れた、この世の闇」
「……」
さらに鈴が続ける。
「あなたがこんな理不尽な戦いに巻き込まれていいはずがないんです。響輝さんはとても優しい人です。だから、私は……」
そこまで鈴が言ったところで、俺のなおも続けようとする鈴を止めた。
「……俺なんかの為にそんな顔をするな」
「ッでも!」
「それに、今はっきりさせておくが、俺はこの戦いに巻き込まれたが、それが受動的だったのは最初だけだ。成り行きで進んだ部分も多いが、最終的にここまできたのは俺の明確な意思なんだよ」
こちらを見上げる鈴の顔が心配に染まる。……嘘じゃねえよ。
「後悔はし飽きたし、もうしたくない。それはお前も一緒だろ?」
軽くパニック状態だった鈴の心が安定していくのが何となく分かった。
「そう……ですね」
そう言いながらこちらを向いた鈴の表情に、もう不安の色は無かった。