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Lost Days  作者: 陽炎煙羅
九章 Holy terror~そして憎悪は紺碧の空に~
235/261

そして黒い空は闇に沈む …1

 自らの存在が俺達に察知されたと気づいたらしく、空中の闇を舞っていた“それ”はより一層気配を強め、大観覧車の周りを飛び回り始めた。

「まだこんな隠し玉があったとは……正直驚きましたよ」

 背中の向こうで鈴が焦りを隠しながら言うのが聞こえた。

「ここで……か」

 下を見下ろす。マズルフラッシュや“光球”が爆発する光は時折見えたが、地面はもう見える距離にない。落ちたらどうなるか……。考えただけで背筋が寒くなるな。

 だがこのいくつかのゴンドラの上、という不安定な場所で戦わなければならないのも事実。

「こちらから攻めることは出来ませんね。なんせ相手は空中にいるのですから」

「……だな」

 こちらは完全に受けの体制だ。相手が動くまでは何もできない。唯一の飛び道具であるベレッタが効く保証もない。

 闇の中を飛び回る“何か”の影が一段と大きく迫った。

「行くぞッ!」

 俺はそれに向かってベレッタの引き金を引いた。


 ――直後、耳障りな金属音と共に、頬を何かが掠って行った。

「……何?」

 思わず空いている左手で頬を抑える。傷は浅い。だが、銃を撃って直後に金属音、頬を掠った何か、ということは……。

「響輝さん、相手は硬いみたいですよ。銃はあまりお勧め出来ません」

 鈴がようやく闇の中から姿を現した“それ”を見据えながら言った。

 頬を掠めたのは兆弾に間違いない。つまり相手は銃弾をも跳ね返す強固な身体を持っている、ということになる。

 視界に入った“それ”の姿を見て、俺はその仮説を確信に変えた。


 まず目についたのは、その長い身体だ。太さも長さもあの“大蛇”には劣るが、脅威的な大きさなのは見て取れた。

 そして、その身体の所々から伸びている、翼と呼ぶには小さい、ひれのような突起。

 最後に、頭部に爛々と光る一対の黄色い眼と、口から除く鋭く、細かい牙。

 手足はない。どんな原理で空中に浮いているのかも検討が付かなかった。

「何ですか……こいつは」

 困惑気味に鈴が呟くのが聞こえた。

「思い当たるものがあるとすれば……クエレブレ、だな」

「くえれぶれ? 何ですか、それ」

「見た目からして空飛ぶ大蛇に紛いなりにも翼が生えた者。つまり飛竜と呼ばれる類の幻想生物だろう。その中でも『銃弾を跳ね返すほどの鱗を持つ』という伝承があるのはクエレブレという種類だけだ」

「……何でそんなに詳しいんですか」

 少し呆れたように鈴が言った。俺が知っているのがよほど意外だったらしい。

「昔、色々調べたことがあったんだよ。それだけだ」

 姉さんが死んでから、復讐を果たすまでの数年間の内、半分以上俺はほぼ引きこもりの様な生活を送っていた。元々民俗伝承には興味があったから、そう言った知識はネットから仕入れたものである。

「クエレブレは成長するにつれて鱗が硬くなるという特性がある。そのため正攻法ではどうやっても勝てないと言われているが……」

「伝承に伝わる敵の怪物には大抵弱点がありますよね? 何かないんですか?」

「……喉だ。クエレブレの身体の内、唯一のどの皮膚だけが柔らかいままらしい」

 最も、こいつはそういった伝承を信じ込んだ人間の恐怖の末端から生み出された“偽物”だ。俺の知っている情報が通るとも限らない。

 ただ分かっているのは、奴が強固な防御力を持っているということだけだ。

「要は、空飛ぶ大蛇でしょう? なら戦いようはあります」

 鈴が大鎌を逆さに持つ。

「隙を作り、喉を裂く。こんなあと一歩の所でいつまでも足止めを食らっているつもりはありません。……そうでしょう?」

 横を向いて顔の片側だけをこちらに向けた鈴が言う。

「……全くだ」

 俺はそう返すと、ベレッタを小太刀に持ち替えた。

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