それが少女の存在理由 …10
「確かに響輝さんの言うとおりです。ここまで覚悟を決めたのに、浅滅に美味しいところを全部持っていかれては困ります」
そう言い、少し幅をとって鈴は立ち上がった。
「わかりました。銃弾はどうにかしましょう。私はサブに回るので、響輝さんはただ大観覧車に向かうことだけに集中してください」
「了解した」
それだけ言うと、窪みから観覧車の真下まで距離を目測で計算する。数十メートルしかないな。……いや、この場合は数十メートルもあると言うべきなのか。
「それでは……いきますよ」
鈴が大鎌を構えて俺の前に立つ。俺の位置からは見えないが、浅滅と“支配者”の戦いは激化しているらしく、散弾の兆弾が辺りを飛び交い、鉛玉の嵐に相殺された“光球”があらぬ方向へ飛んで行ったりと危険なのは見て取れた。
「……何ですか。まさか、いまさら止めるなんて言いませんよね?」
そんな俺の心境を読み取ったらしく、鈴が少し振り向く。
「言わねえよ。……背中は任せた」
「ふふっ。その言葉……もっと早く欲しかったですねッ!!」
その鈴の叫びと同時に、俺と鈴は窪みから飛び出し、散弾と熱の嵐に身を投じた。
「くッ……!」
早速こちらに飛んできた流れ弾を鈴がすべて叩き落とす。それを横目に俺は地面を蹴り、大観覧車に向けて全速力で走り出した。
「ーー貴様ら!」
しかし、それに気づいた“支配者”がこちらに向けて数発の“光球”を放った。
「ッ……!」
迫る“光球”を前に、鈴が大鎌を構え直す。
だが次の瞬間、横から飛んで来た散弾の一群がこちらに向かって来ていた“光球”を飲み込んだ。行き場を失った“光球”の熱がその場で小さな爆発を起こす。
「浅滅……」
爆風の熱波を防ぎながら、驚いたように鈴が浅滅の後ろ姿を見た。俺も思わず速度を緩めて視線を向ける。
ゆるやかな風が浅滅の纏うコートをはためかせた。
「余所見するなよ、“支配者”。お前の相手は……俺だ」
こちらに背を向けたままショットガンを真横に突き出し、浅滅はそれだけ言った。自然と頼りに感じさせる、そんな声だった。
ショットガンをリロードする音がし、
間髪入れずに発砲音が響く。銃口から吐き出された散弾は、再び群を作った。その様は、スピードは桁違いだが、まるで怒り狂った蜂の大群のようだ。
「響輝さん、急いで!」
「わかってる!」
鈴の声に答えながら、俺は再び足に力を込め、地面を蹴った。