それが少女の存在理由 …8
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「――分かったでしょう?」
目の前の光景に唖然としている俺に向かって、鈴が呟いた。
「……」
驚くのも無理はない、と自分で自分を弁明しておくが、聞いてほしい。今俺はにわかには信じがたいものを見ているのだ。
……舞っている。
そうとしか表現できなかった。浅滅の放った弾丸はそのまま前方の範囲へ放たれたが、その後ばらまかれた鉛玉は、秒速350メートルの弾速を保ちつつ、周囲に旋回したのだ。
「……響輝さん、『魔弾の射手』という物語を知っていますか?」
急に、鈴がそんなことを言いだした。俺は首をかしげる。聞いたことのある響きだが、詳しい内容までは知らないな。
「元はドイツの民間伝説ですが、それを元に作成されたオペラの方が有名ですね。射撃大会に出ようとしたスランプ中の若い猟師マックスが結果次第では恋人との結婚をやめさせられてしまうことになってしまい、悪魔に魂を売っている猟師仲間のカスパールと共に自分の意図するところに必ず命中する魔弾を鋳造する物語です。詳しい内容を話している時間は無いので省きますが、まあ要するに、弾丸の軌道を自在に変えることができるんですよ。あの“魔弾の狩り人”は」
弾丸の命中するところ、軌道を自由に操る能力か。浅滅はそれを散弾に応用している、ということか?
「そうですね。あの一発で数百も打ち出される鉛玉の全てが浅滅の狙ったところに命中する“魔弾”になっているんです」
とんだ化け物能力じゃねえか。
「その分身体への負担は非常に大きいです。全力の戦闘をした後は数年身体が使い物にならなくなる、とも聞いています。『魔弾の射手』の中でカスパールは、主人公マックスの命と引き換えに魔弾の鋳造を悪魔ザミエルに頼みます。悪魔に魂を売り払ってようやく手に入れることのできる程の力なんですよ、“魔弾”というものは」
悪魔との取引の末に手に入る能力、か……。
だとすれば、浅滅はどんな運命に魂を投げ出したのだろうか。奴の“狩り人”たる所以は知らないが、どれほどの犠牲と絶望の末に手に入れた力なのかは容易に想像できる。
「……だから浅滅との共闘は出来ないのか」
「その通りです」
浅滅の周りでは蜂の群れか何かのように散弾の群が舞っていた。確かにあの近くには寄りたくない。浅滅にとっても周りに味方が居ては邪魔なだけだろう。下手したらその散弾で味方を蜂の巣にしかねないのだ。
ようやく浅滅の能力が明かせました。
まあ“魔弾”の時点で物知りな人は気付かれていたかもしれませんが。