かつての少女とある少年 …14
「……はぁ、はぁ……」
古びた鍵は寺の裏にあった蔵とも倉庫とも呼べる建物の大きな扉に掛けられていた錠前にぴったりとはまりました。そして、私は鍵を開けるとその中にすぐに飛び込み、急いで内側から木でできたつっかえをかけてその場で座りこみ、嗚咽をこぼしました。
「うぅ……お父……さん……」
先ほどの光景が脳裏に焼き付いて離れません。
男の手が光った次の瞬間、こちらに向けられていたお父さんの頭部が、首から上が、消失した。あまりにも唐突すぎて、頭がちっとも動きませんでしたよ。
逃げ続けることに対する焦燥、現状把握が追いつかないことによる思考の麻痺で感じることの出来なかった、人の死という絶望。それを目の当たりにし、しかも死んだのは実の父親。私の意識はだんだんとおかしくなっていきました。
私はその場で立ち上がり、首をもたげて虚空をしばらく見つめていました。……そして、ふいに身を翻し、薄暗い倉庫を奥へと進んで行ったのです。
まるで何かに取り憑かれたかのような足取りで、私は倉庫の一番奥に行きました。
「……」
薄暗く、ろくに光が差し込まない倉庫の一番奥。そこには、壁に取り付けられた幾つもの武器がありました。
日本刀が数振り、鎖に斧、拷問道具というよりも、ただの武器コレクションに思えました。農作業にも使われる鍬や鋤、そして最後に私の眼に映ったのは……一番厳重に鎖で壁に繋がれ、柄や刃に幾つものお札が貼られた、一振りの大鎌でした。
「これは……きゃッ!」
一歩壁に近づこうとした途端、壁に大鎌を打ちつけていた木材と釘が外れ、大鎌が大きな音を立てて地面に転がりました。まあ、木材の老朽化か何かが原因だとは思いますけれど。
「……」
地面に落ちたそれの柄を握り、持ち上げると妙に軽く感じました。今だからこそ分かりますが、あの時既に私は“逸れ者”として完成されていたんですね。なんせ、緑とは何年もの付き合いでしたから。その力を行使するまでにためられた結びつきは、おそらく強力なものとなっていたはずです。
……『自然と力がわいてきた』なんて言うとベタな気がしますが、その時私は本当にそう感じていました。
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「……ほう、戻ってきたのか」
それからしばらくして、私は再び神社の境内に足を運んでいました。
男は……“支配者”は地面に膝を立てている緑を見下ろしていた視線をこちらに向けました。
「五月蠅い……外道が……」
今ならどんな罵詈雑言でも口から放てる気分でしたが、まずは緑を助けないことには話になりません。私は身体のあちこちに縛り付けている武器の内の一本を引き抜きました。
「外道とは、ふん、褒め言葉だな。しかし、そこまでの武装をつけて、身体が持つものかどうか……」
「ッ!!」
私は“支配者”が言葉を言い終わる前に駆け出しました。
慣れない手つきで手に持った刀を振り回し、何とか“支配者”を緑から離れさせようと接近します。
「そんな華奢な少女の身体でよくもそこまでの武器を持てるものだな。末恐ろしいものだ。……ふん、気分が変わったぞ」
“支配者”はそう言いつつ、私が振り下ろした刀の先を指で受け止めると、もう片方の手をこちらに向けました。