かつての少女とある少年 …11
「町はずれにあるお寺は高峰家の人間が代々管理してきたもので、特に古びた印象は受けませんでした」
鈴は俯いたまま話を続ける。身の丈ほどある大鎌を膝に横たえ、淡々と、感情の読めない過去の朗読をするのはどんな気分なのだろうか。……俺の知るところではないか。
「寺の境内には、やはりいくつかの死体がありました。袴を着たものや巫女姿のもの、わかるのは服装だけで皆身体の一部を裂かれていたり、頭が飛ばされていたりと散々たるものでしたよ。そして、その境内に着いたところで、私は“その場面”に出くわしたのです」
“その場面”……。
「私が階段を駆け上がり、父と共に境内に出るとそこには、黒いローブを着ている長身の男と、そいつに掴み上げられている緑がいました。
その時のことは今でも鮮明に思い出せます……
――――――――――――――――――――18××年 寺の境内(RIN side)
「緑ッ!!」
父の制止も聞かず、私は声を張り上げました。ローブの男に胸倉を掴まれ、持ち上げられている緑がこちらに気づき、少し振り向きます。
「り……んちゃッ……駄目、逃げ……て!」
緑は見るからに疲弊していました。きっと逃げ回った末に男につかまったのでしょう。
「緑を放せ!」
緑を掴み上げていたその男は、私の方を一瞥すると、にやりと口の端を上げました。
……嗤っている。
「……ほう。これは、ようやくお出ましというところか。まさか“逸れ者”が存在しない“鍵”なのかとも思ったが、まあそこまでの代物ではない、ということか……」
「何を……意味の分からないことを……」
ローブの男は“鍵”だの“逸れ者”だのといった言葉を呟きつつ嗤いました。そして、こちらに向かってゆっくりと歩きだしたのです。
「待て」
それを止めたのは、私の隣に立っていた父でした。
「貴様、見ない顔だな。何者だ? どこからこの村に入ってきた?」
この極限状態でも、父は強い人でした。ただ、この時ばかりは相手が悪かったとしか言いようがありません。
「……何者、と訊かれてもな。名前なんざとっくに捨ててしまった身だ。そうだな、“支配者”と呼ばれることが多いか」
「ルラー……」
ルラー。日本人の名前とは思えませんでした。男のイントネーションもあまり日本人らしくありませんでしたし、口調から察するに偽名の可能性もありました。
「今すぐその娘を放せ。今は人が争っている場合ではない!」
「ヒト、か。忌々しいものだな。私が人間に見えるか?」
当然でした。ローブを身にまとっていて体つきは分かりませんでしたが、人であることは確かです。人との差異がどこかにあるようには見えませんでした。
―――――――――――――――――――――Once HIBIKI side
「それが……お前が初めて“支配者”に遭った瞬間……」
「そうです」
鈴は、話を最後まで話しきるらしい。軽い睡眠に入ってしまった梨菜の頭を膝に乗せ、その髪を撫でつつ、再び口を開いた。
次回若干グロいかも。まあいつものことですが念の為。
でもそっち方面に期待はしない方がいいです(汗