かつての少女とある少年 …10
鈴は話を続ける。
「まあ、言わなくても分かるとは思いますが、屋敷の使用人の一人が“恐鬼”に襲われたんです。恐怖は伝染し、さらなる恐怖を生む。呪いと同じです。
……後は単調な流れでしたよ。人が死に、“恐鬼”が現れ、また人が死ぬ。その連鎖の中、私は父に庇われながら逃げ続けました。……ああ、母はいません。私を産んだ時に亡くなったそうです。だから、私は男手一人……と使用人たちに育てられたわけです。
まあそんなことは今はいいですよ。いずれゆっくり話せるようになったらお互いの身の上話でもやりましょう。長生きすれば話のネタも増えますし。……え? フラグだって? 何なんですか、そのフラグって。旗のことですか? まあいいですけど。
えっと、どこまで話しましたっけ。……ああ、屋敷のとこまでですね。
それで、私は父と数人の使用人は急いで屋敷から逃げ出したわけです。ただ、その時にはもうほとんどの事が手遅れでしたけれど。
町……というかあの時代では村ですかね。ともかく、村の中にも既に“恐鬼”がはびこっていたんです。それこそ、そこらじゅうに。人数もそれなりに多い密集落でしたから、余計に被害が広がったとも考えられます。
そうして、周りを守ってくれていた使用人も一人、また一人と殺されて行き、ついに残ったのは私と父だけになりました。
子供心に理解しましたよ。ああ、わたしはここで死ぬのかな……と。
ただ、そんなことになる前に一度だけでいいから緑に会いたかった私は、父に独白したのです。私は家の決まりを破って、屋敷の外の子供と一緒に遊んでいたのだ、と。叱られても、殴られてもかまわない。そう考え、必死に訴えました。
父はそれを聞き、しばらくして、私を抱きしめました。懐かしいですね、父はこう言っていましたよ。
『お前に古の理を押しつけて申し訳なかった。歪んでいた私の家系に生まれたにもかかわらず、お前はとても心の優しい娘に育ってくれた。辛かっただろう……本当にすまなかった』と。
父にも外や分家への建前が必要だったんですね。そもそも父は婿養子でしたし、本当は家の決まりに縛られている私を見ていつも心配してくれていたんです。今となってはもう知る術はありませんが、私の家にはもっと深い事情があったのかもしれません。
父の話では、高峰家はこの村の外れにある寺を管理している一家で、確かに娘が一人いたそうです。そこで、地獄絵図になり変っていく村の中、私と父は、寺に向けて走りました」
鈴が顔を伏せる。
ここからのことを思い出すのは辛いのだろう。
「おい、鈴」
「止めないでくださいッ‼」
俯いたままの鈴が叫んだ。
「言わせてください。……後悔はしたくない。何も言わずに先に進みたくないんです。……お願いです、響輝さん。私に、もう一度“支配者”の前に立つ為の時間を……それだけの勇気を、ください……」
声が震えている。詳しい話は聞いていないが、鈴は“支配者”に真っ向勝負で負けている。その重圧を自分にかけてしまっているのだ。
気の済むまで話すがいい。
「……」
そう考えると、俺は黙って続きを促した。