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Lost Days  作者: 陽炎煙羅
八章 Firelike Lifelessness~そして遊戯は炎に陰る~
214/261

かつての少女とある少年 …9

――――――――――――――――――――――――HIBIKI side


「……響輝さん」

 大観覧車前広場にある細い通路。それを挟んで真向かいのベンチに座っている鈴が、ふとこちらに声をかけた。

「……何だ」

 もうじき“恐鬼”どもとの戦いが再開される。この大きな広場の周りを、近づきすぎず、離れすぎない距離でいくつもの濃い霧が囲い始めていた。

「すこし、昔話をしてもいいですか?」

「……?」

 鈴は視線を下に向けつつ鎌の手入れをしている。何か切羽詰まったような、真摯な表情ではない。

 余興ということか。俺は黙って続きを促した。

 梨菜は鈴の隣でこっくりこっくりと船をこいでいた。幼い子供にはこの状況は厳しいものがあるのだろう。

「……あるところに、一つ、人里離れた村があったんです」

 鈴は表情を変えず、むしろ何かを懐かしむように話し出した。


「そこの村長の家には、一人の箱入り娘がいたんです。家の敷地から出されず、生まれた時からずっと屋敷の庭と空しか見て来れなかった、哀れな少女です。

 ある日、その少女が屋敷の庭で毬をついて遊んでいると、誰かの気配を感じ取ったんです。家のモノではない、だれかの。……少女は好奇心に誘われるまま、敷地の外れに来ました。そこで少女は、一人の女の子が座りこんで泣いているのを見つけたのです」

 そこで鈴は一息ついた。

「その子が、高峰緑だった……」

 ということなのだろう。身の上話ということか? 

 鈴は答えずに、続きを話し始めた。

「家の中から出たことの無かった少女は、すぐにその子と仲良くなりました。そして、その子が迷い込んできた敷地の隙間を通じて、外の世界のことも色々学んだんです。仮にも明治時代です、いくら昔のことと言えど、少女のいた村は古式的すぎたんですよ。

 その交流は運よく、本当に運よく、二年近く続きました。もう二人は唯一無二の親友と言っても過言ではありません。そして、少女が十四歳の誕生日を迎える前日……」

 鈴が一息つき、うつらうつらとしている梨菜を見て、少し顔をほころばせる。かつての自分に重ねているのか、昔の記憶をたどっているのだろうか。


「確か、十一月の十九日でしたか。その日は決まって訪れるその子――高峰緑――が待ち合わせた場所に来なかったんです。不審に思いつつも、都合が悪い時は今までもありましたから、少女は気にしていませんでした。……その日の夜、屋敷の一角で悲鳴が上がりました」

 それまで古き良き日々に浸っていた鈴が、急に緊張感を漂わせて話し始めた。その唐突な陰りに、思わず話にのめり込んでしまう。

 その表情も先ほどとは異なり、鈴の視線はここにはいない怨敵を捉え、眼にはあからさまな敵意が燃えていた。

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