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Lost Days  作者: 陽炎煙羅
八章 Firelike Lifelessness~そして遊戯は炎に陰る~
210/261

かつての少女とある少年 …5

――――――――――――――――――――――KOTONE side


「ん……」

 いつの間に眠ってしまっていたのだろう、ふと気がつくと、自分が眠っていたことを思い出すとともに、それと同時に意識が起きていく。

「あ……れ……?」

 しばし沈黙し、思い出す。やはりここは大観覧車のゴンドラの中だ。外は相変らす赤黒い空と、ほとんど明かりの残っていない街の影。

 見渡すも、“支配者”や“黒帽子”の姿は見えない。


 この街に異変が起きてからもう数日経ったのだ。外の様子は分からないが、あの得体のしれない黒帽子の話を信じると、この街には今も常識の範疇を越えた化け物……“恐鬼”が徘徊しているのだという。

 幸い、このゴンドラが狙われている様子はないが、そもそもこの観覧車は動いていないのだ。その“恐鬼”が地面を動くものなら、ここまでは来れないことになる。

 そこまで考えた時だった。

「さあ、“鍵”戌海琴音よ、時間だ」

「ッ!!」

 地の底から響いてくるような声。顔を上げると、真っ黒なローブを纏った男……“支配者(ルラー)”がゴンドラの中に立っていた。

「時間って……」

「そうだ。もうじき盤上は終焉の時を迎える。その前にお前を……お前の“鍵”を喰らわねばならない」

 “支配者”が余裕の表情を浮かべ、風もないのにローブがはためく。

「私を喰らうって……まさか!」

「そうだ。既に勝負は決した。奴らは遅かったのだ」

「浅滅さんが……負けた?」

 まさか。あの不死身のような肉体と驚異的な戦闘能力を持った“狩り人”である浅滅燎次が、負けたとでもいうのか。

 そんな馬鹿な。

「結局、あいつでは私を止めることはできなかったということだ。ふはは、いくら“狩り人”と言えど所詮はただの人間。永い戦いの中でやつは衰え、すでに限界のはずだ」

 “支配者”が一歩近づく。私は狭いゴンドラの中を後ずさった。

「では、同胞よ。私のものとな……」

 距離を詰められ、今にも首筋を掴まれようかというところまで“支配者”が近づいたが、その言葉は最後まで言い終えられなかった。

「……」

 不思議に思い、瞑っていた目を片方開ける。

「ッ……どういうことだ! 何故あいつがここにいる!? くッ……ひとまず置いておくか。“鍵”よ、私はすぐに戻る。無駄なあがきはしないことだ」

 そうとだけ言うと、次の瞬きの後には、“支配者”の姿は消え、すでにどこにもなかった。



「……」

 しばらく時間が経ち、再び膝を抱いたまま座りこむ。

 浅滅さんが、負けた……。人と異形との戦いで、人間が負けた。その事実は、戦いの場にいなかった私にさえ深く突き刺さる。

 だが附に落ちないこともある。時間に間に合わなかったというのはどういう意味なのか。文字通りなにかに間に合わなかったのか、それとも私の気持ちをかき乱すための嘘か、だ。

「それは嘘だね。ああ、絶対に嘘だとも」

「ッな!?」

 今度ははっきりとした、むしろ拍子の外れた高い声が頭に響いた。

 とっさに振り向くと、今度も黒。

 あの時出遭った“黒帽子(ブラック・ハット)”が、ゴンドラの外の虚空から姿を現すのが見えた。

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