かつての少女とある少年 …4
「“支配者”は圧倒的です。正直なところ、一度敗戦している私では次も危ないかもしれません」
遠くに見える霧を目を細くして見ながら、鈴が呟いた。
「弱気になるなよ。少なくとも俺が単身挑むよりは勝算があると思うぞ?」
それに、ここまで来てあーだこーだ言っても仕方ないだろう。
「そうですね。今までも“支配者”が動いているところに潜り込んだことはありますが、ここまでたどり着いたことはありませんでした」
片手で握っている大鎌の刃を見ながら、鈴は続ける。その眼に映っているのは刃の輝きだけではないだろう。
「それもあなたのおかげかもしれませんよ、響輝さん」
「よせよ。そういうのは生き残ってからにしてくれ」
そう言うのをなんていうか知ってるか? フラグっていうんだぞ。
「そうなんですか? まあいいですけど。今回は負けるわけにはいかないんです。今回勝てなければもう次は無い。……何だか、そんな気がするんです」
不安定すぎる予感だな。そして不穏だ。
なんにせよ、ここまで奴に近づいてしまったらもう退く事ができないのも確かである。
「……お父様、どこなのかなー。ケータイは市庁に置いてきちゃったもんなー」
梨菜をベンチに座らせ、二人で周囲を警戒する。
「……。……」
……何だろうか。少し違和感が頭をよぎった。
もっとこの街には“恐鬼”がいるはずだ。なのに、この観覧車前の広場に来るまでは散々邪魔してきた連中がめっきり顔をださなくなった。
……いや、確かに敵が襲ってこないのはこちらにとって好都合だが、それにしたっておかしい。
このような違和感にはどこかであったような気がするが……まあ今は関係ないだろう。それよりも今は、いつ現れるか分からない“支配者”にどう対処するのか、だ。
「なあ、鈴」
「何ですか? 響輝さん」
ポニーテールにまとめた銀髪がなびき、鈴が振りかえった。
「“支配者”のチカラは三つあるって言ってたよな」
「そうですね」
「だったら、“牢櫃神蔵”、“光球”と、後一つは何なんだ?」
確か残りの一つはお前の親友、高峰緑を取り込んで得たものだと言っていたじゃないか。何の能力か知らないのか?
「それは……」
鈴が困ったような顔をして目を泳がせる。
「……詳しいことは私にも分かりません。ただ、一度だけ……あの子が取り込まれる直前に見たことならあります。フォルムは覚えていないのですが、確かに覚えているのは……とても、怖い、何かだったということ」
「怖い……何か、か……」
いずれにせよ、いいものではないのだろう。“支配者”が全く使ってこないのも気になる。
だが、今は待ちの一手に尽きるか。
少し前までよく聞こえていた誰かの叫び声や車のエンジン音はもう聞こえなくなっていた。
終わりの時は近づいている。