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Lost Days  作者: 陽炎煙羅
八章 Firelike Lifelessness~そして遊戯は炎に陰る~
204/261

そして盤上は動き出す …5

 しかし、この状況はよく考えてみるとこちらにとって相当不利である。

 梨菜を庇わなければならないというのもそうだが、何より問題なのは……鈴だ。


「たあッ!」

 大鎌が振り下ろされ、薙ぎ払われるたびに、こちらに迫る“恐鬼”が幾体も切り刻まれて行く。

 彼女自身に疲労は見えない。だが、一度“支配者”に抉られた心はまだ回復していないはずだ。

 “支配者”が鈴に対して持っているアドバンテージと言えば、実力よりも、おそらく高峰緑の存在が大きい。何かの拍子にそのカードを切られると、おそらく鈴は何もできなくなってしまうだろう。

 ならば、その心をどうにかして支えてやらなければならない。こちらに背を向けて鎌を振るっている鈴の表情は読み取れない。だが、少なくともこれだけは確かだ。

 鈴は今、逡巡している。



――――――――――――――――――――――――。


「はあっ……はあ……」

 数十分の戦闘の末、ひと固まりの霧を抜けることが出来た。ひとえに鈴の活躍のおかげであるが、党の鈴本人は満足が行っていない様子である。

「……まだ、足りない。こんなものでは、“支配者”を斃すことなんて……できない……」

 鎌の柄を強く握り、身体を支えているその様子はまさに戦を終えた戦乙女(ワルキューレ)と形容すべき羞月閉花なものだったが、それでも……。

「……」

 “支配者”は強さというものにたいして特殊な概念を持っているらしい。鈴に対して言っていたという、『“それ”は強さだが本当の“強さ”ではない』という言葉。奴の思想なんか知ったこっちゃないが、その言葉には何か奴を攻略するヒントがあるような気がした。

「鈴」

「……ッはあ、何です……か?」

 少し疲れているのか、鈴は俯いたままだ。

 それが急に、数時間前の“壊された”時の表情を彷彿とさせ、俺は考えなしにその肩をつかんだ。

「え!?」

 そのまま顔をこちらに向け、表情を確認する。

「な、何ですか!? 急に……」

表情は問題ないな。だがあの時の鈴は、目が完全に堕ちていた。

そう考えつつ、鈴の目を覗き込む。

……ふむ、問題無い。だが、やはり瞳の奥に見える憎悪の光の存在だけは気がかりだ。

「ひ、響輝さん……」

そこまで考えたところで、鈴の困惑を露わにしたような声が耳に届いた。

「……何だよ」

「あ……こ、困ります、そんなにじっと見ないで……」

もう限界だ、とでも言いたげに鈴が俺の手を振りほどく。

「私は大丈夫です、ですからそんなに心配しなくても……」

俺がしたことの意味を理解したらしく、鈴はなだめる様に話し出した。

「……鈴」

……だが。

「……何、ですか?」

「鈴、お前は言ったよな。“恐鬼”と戦う時は心の強さが重要だ、って」

「…はい、そうでしたけど……」

俺の言わんとしていることが読めないらしく、鈴がは問いかけるような視線をこちらに向けた。

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