そして盤上は動き出す …4
「しかし、霧ですか。厄介なフィールドですね」
一階に下り、外への扉を開けた鈴が忌まわしげにつぶやいた。
「まあな。そのくせ、あの中には何体もの“恐鬼”がいるわけだ。……全く、何の冗談だよ」
「大丈夫なの? 巽野さんや祗園さんの目標はこの遊園地にあるんだよね?」
梨菜が心配そうに言う。確かに俺達だけでは“恐鬼”に及ばないかもしれない。
「だが、まだどこかに浅滅がいるはずだ」
あいつは集団で動く事に意味を見出している様子はなかったが、この状況では明らかに皆が一緒の方が戦いやすい。奴との合流も視野に入れて行動しなければならないな。
前線は武器を持っている鈴が行く。その次に梨菜を挟み、最後尾に武器の少ない俺が続く。
信頼や友情なんて仮初なもので動くんじゃない。それ以上の繋がりを持って、俺達は動くのだ。
「行きますよ。スピードは一定に。逸れたら終わりだと思ってください」
「そんなことはわかってる!」
目の前に迫った霧に、早足に突っ込んでいく鈴に俺と梨菜が続く。途端、一気に視界が薄い半透明に覆われた。視界を奪われるほどのものではないが、これは戦いづらいな。
「来ます! 左右から一体ずつ!」
鈴が大鎌を振るい、こちらに迫っていた人型の“恐鬼”が両断された。成程、やはり基本は人々の恐怖になりやすいホラー映画の登場怪物が相手になるか。今のはおそらくゾンビの類か何かだろう。
「ッは!」
そう考えていた時、上空から空を切る音がし、とっさに小太刀を垂直に上に突きだした。
フォークで野菜を貫いた時の様な感触と共に、血潮が少し顔に散る。だがそんなことを気にしている暇はない。大きな鳥の羽と虎の胴体が合体したような“恐鬼”が小太刀で貫かれているのを確認すると、それを引き抜き、血を払った。
「はああああ‼」
鈴の叫び声と共に大鎌の刃が振るわれ、こちらに迫る幾多もの“恐鬼”を切り裂き、引き千切る。未だに鈴に疲労は見えていない。
「そんなものでッ!」
後続の俺は完全に受けの体制で戦っていた。飛び掛ってくるものや走って来るものに対してカウンター方式に小太刀を当てる。梨菜の速さに合わせつつ、敵を斃していく。