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Lost Days  作者: 陽炎煙羅
八章 Firelike Lifelessness~そして遊戯は炎に陰る~
202/261

そして盤上は動き出す …3

 きっと今回の闘いは、今まで続けてきた人と暴走した“恐鬼”との歪んだ歴史の中で最も異常なものとなるだろう。

 “恐鬼”のパターンは人の数だけある。それだけあれば、ほんの小さな確率でしか現れない異常な現象もそれに比例して増加するのだ。そして、今回はその引き(・・)がかなりいい、ということになる。


「何にせよ、ようやくここまで辿り着けたんです。“支配者”は必ず斃します」

 鈴がそばの壁に立てかけてあった大鎌を取り、目の前を一閃した。

 鈴は憎しみと怨念から、“支配者”を斃そうとしている。唯一無二の友人を殺された恨みから、復讐をその身に誓い、これまで“恐鬼”を追い、“支配者”の痕跡を追い続けたのだ。

 そして、それも今回で決着がつくだろう。歪みが収縮して、この街ですべてを狂わせていくのだ。



――――――――――――――――――――――――Re:HIBIKI side


「サバ缶美味しいなー」

「そうですね」

 休息もまた、戦闘には必要だ。腹が減っては戦ができぬとはよく言ったもので、実際この世のありとあらゆる行動には食事によるエネルギーの補給が不可欠なのである。

「……なんだかな」

 ふいに、そんな言葉が口から漏れた。向かいの鈴がこちらに目を向ける。

「どうしたんですか?」

「いや、この街に来た頃の俺だったら、こんな考えは持たなかったんだろうなと思って」

「あー……、そうですね。響輝さんの性格からして、さっさと諦めて死んじゃいそうなものですけれど」

 容赦ねえなおい。

 梨菜がスイートコーンの缶づめを開け、顔を輝かせるのを横目に、話を続ける。

「もしかしたら、響輝さん自身が変わってきているのかもしれませんよ?」

「……」

 何言ってんだ。俺の性格が少々とはいえ変化したのは、戌海の“鍵”である琴瑟調和の効果なんだろう? だからこそ、俺は今の俺になれた。

「いえ、確かに私はそう言いましたが、それはあくまで推論です。いうなれば、悪魔の証明みたいなものですよ、人の変化なんて。私だって……その……」

 鈴が少し顔を逸らす。何やってんだお前。

「変化と言うか、何と言うか……あなたといると、勝てる気がして……じゃなくて、響輝さんが私と同じように“支配者”に向かっているのを見て、その……」

 鈴の右手に握っているフォークの先がもどかしげに弧を描いた。早く缶詰食えよ。

「そ、そうですね……」

 慌てたように鈴が缶詰の中をフォークでかき回した。


 しばらく食事を続けていた時だった。

「巽野さん! 外!」

 急に窓の外を見ていた梨菜が声を張り上げ、俺の意識を呼び戻す。

 外を見ると、今だ広がり続けている霧が、俺達の隠れている建物のすぐ近くまで迫っていた。

「『一番酷いのは負け戦。次に酷いのは勝ち戦』……ってか」

「何ですか? それ。誰かの格言ですか?」

 鎌を取り、刃を確かめている鈴が顔をあげる。

「まあな。あと『恐怖以外に恐れるものはない』ってのもある」

 この闘いに意味があるとしたら、それはきっと生き残ったり、命が助かったりすること以上に、個々の人々の感情に何かしらの意味があるのだろう。生き残りたいから戦う。確かに正しいが、“恐鬼”との勝負では命よりも前に、心の強さが問われるのだ。

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