そして盤上は動き出す …2
――――――――――――――――――――――Re:HIBIKI side
「……なるほどな、“支配者”が、か」
「はい。私としたことが、まだ、“支配者”に及ぶ実力ではなかったようです」
鈴が悔しそうに俯く。
「憎しみだけでは勝てない。“支配者”はそう言っていたのか」
「……はい」
力が及ばなかったことがよほど辛いらしく、鈴は俺と目線を合わさない。自分の力が届かない絶望感は俺にもよく解る。それ故、俺はその鈴の態度をとがめることはしなかった。
……『憎しみでは足りない』。どういう意味だ?
まあ、それは後でも構わないだろう。今は他に伝えることがある。
「鈴、前に言ったよな。“恐鬼”は本来、人間の溢れる感情を陰で喰うだけの存在だった、って」
「はい。……それが、どうかしたんですか?」
不審そうに鈴がこちらを向いた。
「実はな……」
語ったのは、“偽”とのやりとり。“恐鬼”の範囲はどこまでなのか。暴走する前の“恐鬼”の存在意義は何につながるものなのか。どうして奴らは記憶に干渉するのか。
「……そう、ですか……」
鈴はよほど俺の言ったことが予想外だったらしく、目を見開いて黙っていた。確かにそうだ。“恐鬼”は絶対悪であり、斃すべきもの。それが今まで知っている人たちの共通認識だったのだろう。こんな突飛な考えではその認識を覆すには至らないかもしれないが、それでも俺はその考えを伝えた。
「確かに、おかしなところはありました。私も人々も“それはそういうものなのだ”という認識しかもっていなかった、それは確かです。でもそれは、“恐鬼”に関して何の情報も無いから。分かっていることは、自分達に危害を加えるモノだということだけだったからです」
「それはわかってる。だが、いままでの事を考えると、そうとしか考えられないんだ」
鈴は再び押し黙る。梨菜はというと、今俺達がいる建物で見つけた缶詰をスプーンですくって食べていた。
「……この街では、色々なことが起こり過ぎます」
しばらく黙ったのちに、鈴はそう言った。
「異常度が高すぎるんです。いつもは人間と“恐鬼”が闘い、どちらかが滅されるか、敗走する。それだけの盤上なのに、今回はどうしてこんなに起きるのか……」
それは……おそらく異常な存在が多いからだろう。
“支配者”が関与していることもそうだが、奴が言うには俺も、“偽”も、はたまた鈴や浅滅がいること自体が既に完璧なまでに異常なのだ。揃いすぎているが故に、役者がそろっているが故の異常な“盤上”。
そしておそらく、それ以上の何かが、この“街”には関わっている。