されど変化は訪れる …1
一日は、まず太陽が地平線の彼方から昇ってくることから始まる。
そして今俺は、その瞬間に立ち会っていた。
何故かと人に聞かれれば、俺はおそらくこう答えるだろう。
徹夜したからだ……と。
徹夜と言えば、テスト前の学生の最終手段でもあり、自らの体をも傷つける諸刃の剣というべき存在だ。
……そう、今日は転校早々の生徒にとっては暗闇から重火器をぶっ放されているかのような苦しみを味わう五日間、すなわち、中間テストである。
ダイニングに母の姿は無い。今日から北海道の方へ行く仕事が入ったらしい。数日は帰れないそうだ。
徹夜していた学生を見捨てて休眠しているハーテッドをサブバッグに押し込み、トーストを焼き、目玉焼きを作り、牛乳瓶のふたを開ける。
それらを胃に流し込んで消化液に任せ、俺は外に出た。
そして気付く。今日は戌海琴音を見ていない。
あの絵に描いたような馬鹿が自重するはずもあるまい。きっと学校に着けば、フリスビーをとった犬か何かのように話しかけてくることだろう。
……だが、その日戌海琴音が俺の前に姿を現すことは無かった。
『空虚だな』
河原に座ってぼうっとしていると、ハーテッドがお得意の電子音声で語り始めた。
「何が」
サブバッグの中で語るな。シュールすぎる。
『久しぶりに会話の無い生活を空虚に感じたのだ。今まではそれが日常だったから余計にな』
まわりくどいな、畜生。
「要は、戌海がいないから静かだと言いたいんだろう?」
『そうとも言う』
やれやれだ、全く。
渡り鳥は一時滞在中の場所に居た者に深入れすると、飛び立てなくなっちまうんだぜ。
『別に深入れしているわけではない。貴様もそうであろう?』
まあ確かにな。毎週来るパン屋とかが急に来なくなったら、誰だって空しくはなるだろうよ。
『見舞いにでも行ってやれ』
「行ってろ」
面白そうにしているハーテッドを持ち、河原を歩きだす。
そういえば、部屋用の鍵を買ってなかったな。
……明日でいいか。