そして少年は自認する
――――――――――――――HIBIKI side
次の日、俺こと巽野響輝は生まれて初めて仮病を使い、学校を欠席した。
松阪家の動向を探るためである。
……って俺は変人か。何をやってる。
まあ、気になったのだからしょうがない。何せ、自らあの骨は母だと言いぬかしたのだ。
直観とかそういうもの抜きで本当のことだと思う。俺も見てしまっていることだしな。
外に出て隣家――松阪家の方である――に向かって歩く。
二階建ての一軒家には人気がなく、表札には本来書かれているはずの名が刻まれていなかった。
建てられて二ヶ月のはずの家の壁には若干ツタが茂り、二階の窓ガラスはひび割れていた。
「…………」
そして玄関の茶色の扉には茶褐色で文字が描かれていた。
……フランス語か?よくわからないが……。
いや……言い訳するわけじゃないが、俺は英語すらままならない。英語の成績は中の下だ。
外国語なんかできるわきゃねえ。俺は生粋の日本人だよ。畜生。
まあともかく、これはどうしたことだろうか。
新家のはずが何十年も経ってしまったかのような古めかしさを漂わせている。
あの家族は引っ越したのか?
……いや、そんな話は聞いていない。
結局、夜になっても父親の出勤している姿を見ることもなく、
無論、松阪久美の姿を見ることはなかった。
「はあ……」
夜の生温かい風が横をすり抜けていくのを感じながら、俺はため息をつき、ゆっくりと月を見上げた。
今日はほぼ丸い月。うん、明後日辺りには満月になるだろうな。
それで、だ。その丸の中を何かが通っているのだが……。
「………っ」
実際に宇宙空間を飛んでいるわけでは勿論ない。
はるか上空を妙な色で光りながら“それ”は飛んでいるのだ。
細長い形状。羽のようなものは付いていないが、ひれのようなものは見える。
……要するに魚だった。確か深海に棲んでる長いやつだ。
はるか下から見上げる俺には目も向けず、“それ”は尾びれのような長い部分を揺らしながら飛……いや、空中を泳いでいる。
……何て言ったか、リュウグウノなんとかっていう巨大魚だ。
だがどうして魚が飛んでいる?
……これはどういうことだ?
本日二度目になるであろう自問自答を頭の中で繰り広げる。
俺の脳内だか、ボキャブラリーだかが全力をもって選挙のような慌ただしさで走り回っているものの、答えは永遠に出そうにない。
信じたくはないが、どうやら俺という人間は新しい街に引っ越して早々から、面倒なことに巻き込まれてしまったらしい。
信じたくはないが……な。
夜風にさらされる体と核弾頭並みに爆発寸前の頭を抱えながら、おそらくそろそろ充電が終わって電子な音声を鳴らすであろうポンコツの話し相手をするため、俺は足早にその場から立ち去るのであった。