そして少女は兆しに気付く …6
翌日。
目を開けると。
「おはよう!響輝君」
…どうやら俺は早朝早々から酷い幻覚を見てしまったようだ。
もうひと眠りしよう。ああ、それがいい。
「ちょっと、ひーびーきー君、起きてよー。布団被り直さないでー」
「邪魔だ、出てけ」
イエス、ナイス一蹴。
「うぅ……わかったわよ…」
肩を落としながらゆらりゆらりと部屋を出ていく琴音を見ながら、今日は部屋用の鍵を買おう、と俺は思うのだった。
『何故我を投げ捨てたのだ』
「ああ、すまない」
『何故我をthrow awayしたのだ』
「ああ。すまない」
ハーテッドに言いたいことを言わせておき、前から話しかけてくる琴音を往なしながら、家を出る。
――さて。俺の目がぶっ壊れているのなら、さっさと説明がつくのではあるが、その線は無いものとして、昨日の“あれ”について考えてみよう。
まず、だ。人間の身体構造的に骨だけで歩いたり立ったりなんてことは出来ないのだ。
そもそもこの時点であり得ない。……畜生、考え始めたら止まらないな。
(……どうせいたずらに決まってる。)
十分ほど歩きながら考えた結果がこれだよ。情けない。
…ある意味極論ではあるが。
「何が?」
横を歩いていた琴音が反応する。
しまった、口に出してたのか……。
『いや、な。昨日響輝が変なものを見たというのだ』
おいこら端末。何しゃべってやがる。
「変な……もの?」
琴音は緊張したような面持ちでハーテッドの方を見る。人の腰をじろじろ見るな。変態か。
『うむ。それがな、何と…だ……』
ハーテッドの端末の音量を下げる。というかゼロにする。
「……響輝君、それはまずいんじゃないかな」
「問題無い」
ハーテッドも、俺の頭の中もな。何かの見間違いだったのだ。
そういうことにしておこう。いや、しておくべきだ。
――――――――――――――――KOTONE side
その日の夕方、戌海琴音は商店街で立ち尽くしていた。
「嘘……」
琴音の目の前では、行きつけの八百屋だったはずの建物が古めかしく地面から伸びていた。
そしてシャッターには、赤褐色のペンキでよく解らない文字が描かれていた。
……何かがこの街に起こっている……?
混乱する頭の中で琴音が感じたのは、本能的な危機感だけだった。